<社説>在沖基地に核攻撃 外交努力で火種除去を


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 米中関係の問題を米連邦議会に報告、提言している「米中経済安全保障調査委員会」が、在沖米軍基地に中国が先制核攻撃をする可能性に言及した。その上でインド太平洋地域や欧州の同盟国・友好国に米軍の中距離弾道ミサイル配備を受け入れる意向がないか探るよう米議会に求めた。

 玉城デニー知事は「米中対立の激化で沖縄が攻撃目標になるような事態は絶対にあってはならない」と反発した。しかし米国は既に沖縄からフィリピンを結ぶ「第1列島線」に中距離弾道ミサイルを配備するための予算を計上するなど配備計画を進める姿勢だ。
 仮に核ミサイルを撃ち合えば、沖縄のような小さな島は壊滅状態になる。そのような事態を避けるために、米中はじめ日本も、紛争の火種を取り除き、衝突を回避する外交努力に徹するべきだ。核兵器を増産し合う軍拡競争に陥ってはいけない。
 インド太平洋地域での中国の核戦略について委員会は「低出力で、より精密な核兵器の限定的な先制使用を取る可能性が高い」と分析。「(中国の指導部は)この戦略で米空母やグアム・沖縄の米軍基地などの軍事資産を破壊できるのであれば、米国の干渉を抑制し、(中国に)軍事的優位性を与えると考えているだろう」と推測する。
 中国や北朝鮮による「核兵器の先制使用」を脅威と見なす議論は日本でも盛んになってきた。敵基地を攻撃できる能力を日本も持つべきだという主張である。岸田政権は検討していく構えだ。
 自民党の河野太郎広報本部長は、バイデン米政権が検討している「核兵器の先制不使用」やそれに準じる政策について「中国や北朝鮮に誤ったメッセージを送りかねない」と懸念を表した。日本が抑止力低下に備え「ある種の攻撃能力を高める必要がある」とも語り、防衛関連投資の増額やミサイル能力の増強を検討する必要があると強調した。
 この発想は非常に危険である。攻撃能力の保有を認めれば、日本の防衛政策の根幹である専守防衛の原則が形骸化するからだ。9条をはじめとする憲法の理念から逸脱している。アジア太平洋戦争で周辺諸国に多くの犠牲を強いた日本が過ちを繰り返さないというメッセージにもなってきた専守防衛を転換すれば、信頼を失いかねない。
 敵基地攻撃能力論は、核弾頭搭載可能な中距離弾道ミサイルを米国が日本に配備する計画と親和性が強い。その計画を呼び込むための地ならしにも映る。日米で計画を進め、沖縄に配備されることになれば、沖縄は日本復帰前のように核戦争の最前線にされる。
 沖縄戦時の沖縄のように再び「捨て石」にされてはならない。いざ有事が起きれば今度は核兵器である。犠牲は沖縄戦の比ではないはずだ。日本は敵基地攻撃能力を持たなくてもいい関係を中国や北朝鮮と築くべきだ。