全国の地方議員を対象に内閣府が実施したハラスメント(嫌がらせ)に関する調査で、実際に被害を受けた、あるいは見聞きしたという事例が1324件寄せられた。
見過ごせないのは、ハラスメントの行為主体が議員46・5%(616件)なのに対し、有権者が53・5%(708件)と多いことだ。自治体や議会による研修で、議員同士のハラスメント防止は一定程度進むだろう。だが有権者への啓発をどのようにするのか。
地方議員は地方自治の基盤となる議会の担い手である。議員に必要なのは条例を制定し、役所の行為が適切か監視する能力である。性別や年齢を理由に中傷するなどあってはならない。有権者も意識を変える必要がある。
有権者から議員への嫌がらせ708件のうち77・3%(547件)をパワーハラスメントが占めた。突然罵声を浴びせられ、暴力を振るわれるなどの例がある。中には「若造が、政治をなめるな」と中傷された例もあった。
年配の男性から他の男性議員と差別した扱いをされ、名刺も受け取ってもらえないという事例の報告もある。
セクシュアルハラスメントでは、投票の見返りに交際を強要されたり、無理やり身体的接触を求めたりするケースもあった。
匿名による調査のため被害を受けた議員の年齢、性別は不明だが、被害の内容から推察できるのは、当選回数の少ない若年議員、女性議員に被害が集中していないかということだ。
本紙「『女性力』の現実」報道の一環として昨年実施した県内女性議員へのアンケートで、約4人に1人が性差別を経験したという結果とも符合する。
1票を投じたのだから要求に従うべきだ、という有権者がいるのであれば、議会選挙が何なのかを理解していないと言わざるを得ない。選挙は人気投票でなく、議員の資質と政策を問うものだからだ。
内閣府が調査したのは、政治分野における男女共同参画推進法が一部改正され、国や地方自治体が研修を実施するなどの規定が加わったからだ。同時に内閣府の調査でハラスメント防止に必要なのは「議員向け研修」が最多という結果も受けてのものだ。
まずは今回寄せられた事例を基に、議会内でハラスメントをしない、させないという意思を徹底させるべきだ。
そうした研修をした上で、各自治体は有権者に対しても同様の内容を周知する手だてを考えてもらいたい。
酒席で女性議員にお酌を強要するなど、21世紀になっても蛮行が繰り返されるようでは地方自治の基盤たる議会の存在意義すら問われる。
議員にも有権者にもいま一度考えてもらいたいのは、ハラスメントのない社会を構築するという原点だ。誰もが生きやすい社会は、政治が目指すところのはずだ。