<社説>NHK字幕問題 デマ助長した責任は重い

 NHKが昨年12月に放送したBS1スペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」で、五輪反対デモに「お金をもらって動員されている」と、事実ではない字幕を付けた問題が波紋を広げている。「チェックが不十分だった」と謝罪したものの、説明には不可解な点が多い。番組に登場した東京五輪公式記録映画の撮影スタッフが、NHKの説明は事実と違うとして抗議する事態にもなっている。

 誤った字幕は五輪反対デモに関するデマを助長し、主催者や参加者を誹謗(ひぼう)中傷するものである。チェックの不備の問題に矮小化してはならない。放送倫理・番組向上機構(BPO)が調査に乗り出している。公共の電波を使う放送局の責任は重い。
 沖縄の基地反対運動も、かつて放送によるデマ攻撃を受けた。東京MXが2017年1月に放送した番組「ニュース女子」である。米軍北部訓練場のヘリコプター発着場建設に反対する市民が日当をもらって活動していると報じた。同年12月、BPOの放送倫理検証委員会は、東京MXに「重大な放送倫理違反があった」と断じた。
 今回のNHK番組は、五輪公式記録映画の監督を務める河瀬さんに密着取材した内容で、問題の場面は「五輪についてさまざまな考えの人を取り上げる」という意図で取材したという。匿名で登場した男性は、五輪反対デモに参加したとも金銭をもらったことがあるとも語っていない。番組全体でも、金銭による動員があったと裏付ける内容はなかった。
 「ニュース女子」では制作したDHCテレビジョンに沖縄ヘイトの意図があったことが濃厚だ。今回の関係者に運動を誹謗中傷する意図はなかったとしても、デマを助長したことは確かである。デモなどの正当な表現行為への参加を萎縮させることにつながりかねない。
 言論法が専門の山田健太専修大教授は「字幕を付けるに至った事実関係がまだ明らかではないが、社会においてデモに対する誤った感情や認識を広める可能性があるのではないか」と指摘する。五輪反対運動に取り組んできた団体の一つ、「反五輪の会」は抗議声明で「私たちが金銭によって参加者を動員するということは一切ありません」とした上で「自発的に参加した多くの団体・個人の名誉を毀損(きそん)するもの」と番組を批判した。
 NHKは経緯を明らかにする責任がある。さらに河瀬さん側にも、なぜ五輪に反対する団体を正面から取材しなかったのか、なぜこの男性を登場させる必要があったのか、などの疑問について説明する責任があるのではないか。
 NHKは、河瀬さんら五輪関係者と視聴者には謝罪したが、デモの主催者や参加者にこそきちんと謝罪しなければならない。そのことを通じて、市民の表現の自由を守る姿勢を明確にすべきだ。



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