<社説>宮古など特別注視区 土地規制法は容認できず


社会
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 安全保障上重要な施設周辺の土地利用を規制する「土地利用規制法」の全面施行(今年9月)を前に、政府は対象地区の絞り込みを進めている。重要度の高い「特別注視区域」として全国200カ所を指定する方向で、宮古島や与那国島が含まれる。

 この法律は、安全保障を理由に自衛隊基地や国境離島、原発周辺の土地を「注視区域」や「特別注視区域」に指定し、指定区域周辺の住民調査を可能にする。施設の機能を妨害する行為への中止勧告・命令を可能とする。
 米軍基地や自衛隊施設が集中し、国境離島を有する沖縄は、多くの住民が調査対象になる。住民生活や経済活動への影響だけでなく、個人情報が国に収集され、思想信条や表現の自由、財産権を侵害する恐れが指摘されている。憲法に抵触しかねない法律の施行は認められない。
 当初、法案がまとめられた背景として、外国資本による土地購入に対する懸念があった。しかし、日本が批准する「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)により、外国資本だけを対象とした規制は難しい。
 このため政府は土地所有者の国籍を問わず「安全保障」を名目にすることにした。出来上がった法律は、外国人が土地を所有すること自体は規制せず、基地周辺で暮らす自国民を監視対象にする内容にすり替わってしまった。
 しかも、これまでに重要な施設への機能阻害行為が国内で確認された事例はないことを政府は認めている。立法の必要性を裏付ける根拠のない法律を成立させた真の狙いは何か。
 昨年の衆院内閣委員会で、自民の杉田水脈氏は名護市の辺野古新基地建設工事に対する反対運動を名指しした上で「一見して直ちに重要施設の機能を阻害しているように見えなくても、そこから派生する影響も十分に考慮し(防衛施設を守る法案の)本来の目的を果たしてほしい」と法案の適用拡大を求めた。「本来の目的」とは基地に反対する住民を排除することなのか。
 この法律によって、土地所有者に対する調査は、内閣府に新設する部局が公安調査庁など関係省庁と連携して行い、個人情報を一元的に管理する。個人の思想信条の調査について政府は「条文上、排除されていない」との認識を示している。住民監視活動を法的に認めたのに等しく、看過できない。規制の対象となる違法行為も明確にされず、全て閣議決定や政令に任せている。国会軽視もはなはだしい。
 「注視区域」や「特別注視区域」は米軍基地などの周辺1キロ圏内が対象となる。8割の土地が基地に収用されている嘉手納町は全域が規制対象になり得る。米軍普天間飛行場が市の中央にある宜野湾市は大部分が1キロ圏内だ。沖縄県民を監視下に置くような法律を全面施行させるわけにはいかない。