<社説>軍属から養育費徴収 地位協定含め、制度改定を


社会
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 本島在住の女性が、子どもの養育費の支払いに応じない米軍属の元夫について、米国の制度を利用して給与を差し押さえ、養育費を徴収することに成功した。

 日米地位協定には、軍人、軍属の給与差し押さえに関する取り決めがない。特に軍属からは養育費を徴収することは難しく、画期的なケースだ。事例を研究し、不払いの横行で苦しむ女性らの悩みの解消につなげてもらいたい。
 今回活用した米国の養育費回収システムは、別居中の親の居場所を突き止め、法的な親子関係を確定し、養育費を回収する仕組みだ。
 ただ、相手方が米本国にいないと利用できず、米軍関係者の元夫が県内にいる場合は活用できていなかった。
 徴収に協力した国際家事相談支援の「ウーマンズプライド」(北谷町)は、嘉手納基地内にある元夫の私書箱の住所が米カリフォルニア州となっていることを確認。同州裁判所に養育費の支払いを申し立て、強制徴収の決定が得られた。
 養育費の未払いは全国的な問題である。厚生労働省の2016年度調査によると、ひとり親世帯は全国に約140万世帯。そのうち123万世帯と推計される母子世帯で、離婚した元夫からの養育費を受け取っている割合は24%にとどまる。
 養育費については離婚時に父母の合意で取り決めると規定されているが、強制力はない。こうした背景もあってひとり親世帯の約半数が相対的貧困状態にあるとされる。
 ひとり親世帯の収入はコロナ禍でより深刻化している。法制審議会は養育費の強制徴収や行政による立て替え導入の要否など、制度全般の在り方を検討中だ。
 米軍関係者を元配偶者とするひとり親世帯の問題の解決に向け、ウーマンズプライドのスミス美咲代表は県内への裁判外紛争解決手続き(ADR)機関が必要だと指摘する。ADRによる財産の差し押さえといった強制執行が可能となる法改正の要綱案がまとまった。
 一方、こうした法改正によって強制徴収の仕組みが実現したとしても、地位協定の改定がなければ、米軍関係者の元配偶者らは引き続き自助努力を求められる。相手が日本人である場合よりもハードルが高く、泣き寝入りする事例が続くことも考えられる。
 今回の事例は、当事者の忍耐強さと、支援者の経験、知識が合わさり、地位協定に風穴を開けたと言える。ただ、困窮を脱するために国民自らが風穴を開けなければならない地位協定とはいったい何なのか。
 法務省の有識者会議は、養育費について民法に請求権を規定するなど、子の権利として明確化することの検討を求めた。米軍関係者を親に持つ子の権利が侵害されることはあってはならない。地位協定の抜本的な改定が必要だ。