<社説>米兵が強制性交致傷 起訴前の引き渡し必要だ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 またしても米兵による凶悪犯罪が発生した。2021年10月、女性に性的暴行を加えようとしてけがを負わせたとして、那覇地検が同年12月に米海兵隊上等兵ジョーダン・ビゲイ被告を強制性交等致傷罪で起訴していた。

 今年は沖縄の施政権返還(日本復帰)から50年を迎える。事件のたびに再発防止や綱紀粛正を唱えるが、復帰後も凶悪犯罪が繰り返される。軍隊の抱える構造的な問題が横たわる。性犯罪は被害者の人権を蹂躙し「魂の殺人」と呼ばれる。卑劣で凶悪な犯罪は断じて許されない。
 凶悪犯罪の場合、米側が認めれば起訴前に米兵の身柄を日本側に引き渡せる。だが、今回の事件の身柄引き渡しは起訴後だった。犯罪は米軍施設の外で起きた。日本側が起訴前に身柄を拘束して捜査すべきだ。日本政府は全ての犯罪について起訴前の身柄引き渡しを義務付けるよう、地位協定の見直しを求めるべきだ。
 県内では昨年から米軍関係者による性犯罪が相次いでいる。米軍に特権を与えている地位協定で守られているという意識が事件・事故を助長してきたと指摘されてきた。
 日米地位協定17条によって、米軍人・軍属による公務外の犯罪で、容疑者の身柄が米側にあるときは、日本側が起訴するまで米側が拘束する。
 1995年の少女乱暴事件を契機に地位協定の「運用改善」がなされた。「殺人、強姦という凶悪な犯罪」に限り、起訴前の身柄引き渡しについて米側が「好意的な考慮を払う」ことで合意した。しかし、強制力はなく、米側が明確な理由を示さないまま身柄引き渡しを拒否した例もある。
 捜査関係者によると、県警の捜査でビゲイ被告の犯行と特定し、米軍が基地内で同被告を拘束したという。被告は米軍の監視下にあり、県警の出頭要請に応じる形で複数回にわたって取り調べを進めた。県警と米軍の情報共有や協力の結果だろうが、地位協定の運用が改善されたのだから、起訴前に日本側が身柄を要求すべきだ。
 なぜ性犯罪が繰り返されるのか。2016年の米軍属女性暴行殺人事件に際し、米国の退役米軍人でつくる「ベテランズ・フォー・ピース(VFP)」琉球沖縄支部が声明を発表したことがある。VFPは「軍人教育と綱紀粛正」がジレンマを抱えているからだと分析する。軍隊は「良き隣人」訓練だけでは、実際の戦場で戦うことができない。そこで効果的な殺人者となる非公式な教育も受けている。
 専門家は海兵隊では男性的な攻撃性を突出するために、徹底的に女性を蔑視する非人間的な訓練が行われ、人間としてのバランスを失っていくと指摘する。軍隊が存在する限り犯罪は繰り返される。
 一方、被害者保護は理解できるが、凶悪犯罪が発生したことは事実である。非公表とする理由は何か。納得のいく説明が必要だ。