<社説>学術会議任命拒否 問題は解決していない


社会
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 日本学術会議は4月の総会で、会員候補者の選考方針を決定した。2023年に任期が始まる次期会員の選考議論を開始するのに伴い、選考過程の透明性と説明責任を強化したものだ。

 一方、現会員の選考について、学術会議が推薦した会員候補6人を菅義偉前首相が任命拒否した問題は今も解決していない。この問題をうやむやにしたままでは次の会員人事も、国家が研究者や学術機関に介入できる余地を残すことになる。
 前政権のことだとして幕引きを図ることは許されない。学問の自由を侵害した所在の明確化と、任命拒否によって定員を欠いた違法状態の解消について、岸田文雄首相は国民への説明責任を果たさなければならない。
 学術会議が決定した次期会員候補の選考方針は、会員のジェンダーバランスや地域バランスに考慮し、大学や研究機関だけではなく産業界、医療界、法曹界、教育界といった現場で優れた研究・業績を有する人物の選考を検討することも明記した。候補者数や選考理由も公表していく。
 学術会議の活動を評価する外部有識者は、現代に即した組織の定義や役割を自ら提示することを学術会議に求めた上で、「広範かつ専門的な知見を基に、複数の政策の選択肢を日本学術会議が示し、それを基に政府がエビデンスに基づく政策決定を行う」という姿を提起していた。
 学問の自由に基づく複眼的で開かれた視座と、独立した立場で政府の政策決定に意見する学術界の立ち位置を保障する。そのためにも、改革姿勢を内外に示していくことは重要だ。次期会員の選考方針は、多様な学術領域の確保や選考の透明性を高める取り組みの一環として評価できる。
 現在、戦後日本の国是を転換する議論が矢継ぎ早に進んでいる。自民党安全保障調査会は、敵基地攻撃能力を「反撃能力」に改称して保有することや、国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に防衛費の倍増を政府に要請した。専守防衛との整合性が問われる。危機にあおられた拙速な議論ではなく、科学者の客観的で総合的な検証が必要だ。
 日本学術会議は1950年と67年に軍事目的のための科学研究を行わない声明を出し、2017年にも声明を継承することを表明している。こうした姿勢を煙たがる政権が、会員人事に介入してきた可能性が野党などから指摘されている。任命拒否の真相究明を終わったことにできない理由がここにある。
 学術会議の梶田隆章会長は、任命拒否の理由を政府に求め続けているが回答がない状況について、「じくじたる思いだ」と述べた。その上で、引き続き問題の解決に取り組むことを強調した。
 学問の自由や学術機関の独立性を守るため、国民全体で粘り強く追及を続けなければならない。