<社説>南西諸島で実戦想定 戦争準備やめ平和構築を


社会
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 浜田靖一防衛相が、台湾有事の際に沖縄県民の島外への避難が必要になった場合、自衛隊の航空機や船舶で輸送するとし、「民間人の避難や救助をおろそかにする考えはないが、自衛隊にしかできない武力攻撃の早期排除が極めて重要だ」と語った。戦闘を優先せざるを得ないという本音も伺えるが、そもそも県民は避難や救助が必要になる事態を望まない。政府は平和構築にこそ取り組むべきだ。

 2023年度の防衛省の概算要求額は、過去最大を更新して5兆5947億円に達した。金額を示さない100項目の「事項要求」があり、1兆円もの積み増しが見込まれている。その中に、南西諸島での「実戦」を想定した「戦闘継続能力(継戦能力)の向上」、長射程ミサイル配備が含まれている。
 政府は、中国への抑止力として、現行の射程百数十キロのミサイルを改良して約900キロに伸ばした長射程の計1000発程度のミサイルが必要になると試算している。これが「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の具体策なのだという。また、継戦能力向上のためとして、概算要求にミサイルの製造ライン強化を明記した。保管場所も必要になる。沖縄県民が隣り合わせを強いられる武器・弾薬がさらに増えることになる。
 抑止力が戦争準備と同義になっているのではないか。抑止力と引き替えに南西諸島は標的となり、戦場になる危険を背負わされるのか。
 安全保障政策の転換は安倍晋三政権が一貫して進めてきた。13年に国家安全保障会議(NSC)を創設し、初めて「安全保障戦略」を策定。14年には閣議決定で、集団的自衛権の行使容認を決定。15年に安全保障関連法を強行採決で成立させた。
 年末に「国家安全保障戦略」など防衛3文書が改定される。自民党は4月に安全保障調査会(小野寺五典委員長)でこの改定への提言をまとめた。相手国の司令部なども攻撃対象とする「反撃能力」保有、防衛費を「5年以内に大幅増」などと明記した。
 小野寺氏は「敵基地攻撃能力」の名称を「反撃能力」に変えたことに関して、敵から攻撃を受けた場合のみを想定しているのではなく、敵に意図があり、攻撃に着手したと認定すれば攻撃が可能だと説明した。これは先制攻撃なのではないか。概算要求はこの提言を先取りしている。提言通りになれば日本は「専守防衛」を捨て、財政逼迫(ひっぱく)の中にもかかわらず戦争準備と軍備拡大に突き進むことになる。
 ウクライナもそうであるように、戦争が起きてしまっては遅いということを歴史は教えている。それなのに、政府の平和のための外交努力が見えない。9月には中国との国交正常化50年の節目を迎える。本来なら信頼関係を強化する好機だ。信頼こそが抑止力である。戦争準備をやめ信頼構築にこそ努力すべきだ。