<社説>反対大勢の国葬実施 決定過程の検証が必要だ


社会
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 国民の約6割という根強い反対の中、安倍晋三元首相の国葬が執り行われた。法的根拠のほか、決定過程や財政支出の在り方を含め、疑問は拭えない。国葬の実施は憲法に抵触するとも指摘されてきた。

 立憲主義や国民主権など、戦後の日本が追求してきた民主主義の理念にも反する。実施によって終わりということでは済まされない。政府は国会での審議はもちろん、後世の評価に向けて検証する場を設けるなど、実施の責任を全うする必要がある。
 国葬の歴史に詳しい中央大の宮間純一教授は「国葬は大日本帝国の遺物。誰か一人を追悼して国としてのまとまりを高めようという思考は戦後日本の民主主義、自由主義とはなじまない」と指摘した。戦前の国葬が国民を戦争に動員する政治的意図に利用されてきた背景があるからだ。
 実施については事前に国会には諮らず、閣議決定で押し切った。のちに国会に説明したが、基準や財政支出の是非については議論は不十分なままだ。
 経費は運営や会場設営に約2億5千万円、警備、接遇費を含めると16億6千万円に上る。国民の代表である国会での十分な審議を経ずに税金を投入する。理解は得られていない。共同通信の全国世論調査は「反対」「どちらかといえば反対」が60.8%。長野県の信濃毎日新聞の県民調査は反対が68%、賛成16%。福島民報などの県民調査は反対66%に賛成21%だった。
 財政負担以外にも表現の自由、内心の自由との整合はどうなるのか。この点も国会での論議は全く足りていない。
 戦前は国葬について定めた勅令の「国葬令」があったが、戦後の憲法制定によって失効した。つまり、国葬の実施には法的根拠がない。
 であるならば、実施に当たっては立法との関連を国会で審議するのが筋だが、その手順を踏まなかった。「国の儀式」は内閣府の所掌事務であることから、「新たな根拠法は必要ない」との論理だ。法に基づいて執行する立場の政府が、その根拠を必要ないとするのはあまりに無理がある。
 事は国論を二分する重要問題だ。緊急性があったと思えないが、国会説明は後回しだった。立法府軽視の批判は免れず、立憲主義にも反する。
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治、特に自民党との親和性が銃撃事件で問題化した。当初は個々人の問題としていたが、支持率低下などによって党は調査にようやく踏み切った。国葬実施には問題の幕引きの意図があるのではないかとの見方もあるが断じて許されない。
 岸田文雄首相は国葬実施で「民主主義を守る決意を示す」と言ったが、その理念からはかけ離れている。民主主義に資するというのであれば、実施決定に至る経緯など全てを明らかにして検証する、それしか策はない。