<社説>臨時国会代表質問 国民の疑問に向き合え


社会
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 岸田文雄首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が衆参両院で始まり、内閣改造後初の本格的な論戦が交わされている。だが、岸田首相の答弁は従来の政府方針の繰り返しが目立つ。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設についても「唯一の解決策」という政府見解を踏襲するだけだ。年末までに予定する安保関連3文書改定による防衛費増額や敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有についても、明確な説明を避ける姿勢に終始している。
 国会のチェックをやり過ごし、既成事実を積み上げるやり方は民主主義をゆがめるものだ。岸田首相は国民の疑問から逃げず、論戦に正面から向き合うべきだ。
 根拠法がなく、国会への説明もないまま実施に踏み切った安倍晋三元首相の国葬儀の検証は、臨時国会の焦点の一つだ。岸田氏は答弁で「国会との関係など一定のルールを設けることを目指す」と今後の対応を強調したが、評価が分かれる安倍氏の国葬を内閣の独断で決めた経緯をつまびらかにしていない。
 安倍氏の長期政権下では、野党の国会召集要求を拒んだり、反対勢力を敵視したりする国会軽視が際立った。岸田首相も丁寧な説明を欠くようであれば、民主政治に大きな禍根を残すことになる。
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党議員とのつながりの解明についても及び腰だ。8月の内閣改造で留任した山際大志郎経済再生担当相に教団側との接点が次々と発覚している。首相は「(山際氏が)自らの責任で丁寧に説明を尽くす必要がある」と更迭を否定するが、内閣改造に当たり「(旧統一教会との)関係を点検し適正に見直す」とした任命責任を棚上げして幕引きを図ろうとする姿勢では信頼回復は程遠い。
 専守防衛を逸脱する敵基地攻撃能力の保有は、自衛隊の南西シフトが進む沖縄の危険性や負担を増大させることになりかねない。ここでも岸田首相は、年末の予算編成過程で結論を出すとして詳細な説明を先送りしている。
 岸田氏は首相就任から1年がたつが、当初の看板と実際の政策との間に乖離(かいり)が大きい。「新しい資本主義」を掲げて強調した「分配」の文字は消え去った。ハト派的な体質が強い宏池会の出身でありながら、改憲意欲を鮮明にする。被爆地広島が地元と強調しながら、米国追随で防衛費の歯止めない膨張に傾く。
 今は防衛費を倍増することより、物価高騰から国民生活を守り、コロナ禍から景気を回復させる経済対策を優先することが、宏池会出身政治家の本分ではないのか。
 「聞く力」を強調しながら、辺野古移設について玉城デニー知事の対話要請を無視し続ける対応も同様だ。首相の言行不一致が、政権に対する疑念や不信を生じさせている。岸田首相は国民への説明責任を尽くしてほしい。