<社説>与那国で戦闘車走行 戦争回避の外交に全力を


社会
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 日米共同統合演習「キーン・ソード23」の一環で、陸上自衛隊は16式機動戦闘車(MCV)を与那国空港に運び込み、与那国駐屯地まで一般道路を走らせて移動した。離島に戦闘車を送り込む事態が起きた際に、迅速に展開できるようにする訓練だ。

 自衛隊と米海兵隊は台湾有事を念頭に、離島を占拠した武装勢力からの奪還作戦の訓練を進めている。武装勢力に対処する戦闘車を与那国島で走らせるのも、台湾有事の予行演習といえる。
 沖縄が戦火に見舞われることを前提にした作戦や、民間の空港・道路を使用した軍事訓練は認められない。米中の対立を和らげ、戦争を回避する外交努力に全力を挙げることが、国民の生命・財産を守る政府の役割だ。
 県内でMCVが一般道を走行するのは初めてだ。戦車と同じ砲塔を備えた武装車両であり、攻撃用の兵器だ。戦争のための武器や装備を公衆の面前で展開することは、どこであろうと厳に控えるべきだ。ましてや住民を巻き込んだ地上戦を体験した沖縄で無神経極まりない。島民に戦争の不安をかきたてることは断じて容認できない。
 防衛省関係者は「有事になった時に通ったことがない道を通る『ぶっつけ本番』では戦いにならない」と公道訓練の目的を指摘し、沖縄本島でも走行の必要性があるとの見方を示している。
 本島での公道訓練の布石として、人口の少ない与那国島で先行させる狙いがあるとすれば言語道断だ。戦争を想起させる異常な光景に慣らされるわけにいかない。
 今回のキーン・ソードでは、自衛隊と米海兵隊による「日米連絡調整所」の設置訓練も与那国駐屯地で行われている。米軍が与那国島で訓練をするのは初めてだ。台湾に極めて近い島での日米一体の軍事作戦は、地域の緊張をさらに刺激する懸念がある。
 安全保障上の緊張を高めているのは、中国の習近平国家主席が掲げる軍拡路線にも原因がある。8月には中国軍が台湾周辺で大規模な軍事演習を実施し、日本の排他的経済水域(EEZ)内の波照間島や与那国島周辺にも弾道ミサイルを落下させた。武力による圧力を強める中国に抑制を強く促すことが、県民の安全確保にとって重要だ。
 だが現状は日本政府に戦争回避の主体的な姿勢が見えず、米軍の補完勢力として有事の備えに突き進んでいる。「反撃能力」としてのミサイル配備や防衛費倍増など、中国を東シナ海に封じ込める「防波堤」の役割を積極的に担おうとしている。このまま台湾有事が現実になれば戦場になるのは南西諸島だ。
 軍備増強と有事への備えは離島の安全確保と逆行する。沖縄を戦場にしない、台湾も戦場にしないという決意を示し、大国間が対話するパイプづくりに貢献することが平和憲法を持つ国の責務だ。