<社説>比嘉選手ゴルフ賞金王 強み生かす努力の結果だ


社会
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 多くのゴルフファンが待ち望んだ栄冠だ。今季日本男子ツアーで比嘉一貴選手=うるま市出身、具志川中―本部高―東北福祉大=が初の賞金王に輝いた。

 県勢では2017年の宮里優作選手に次いで2人目の賞金王誕生となる。比嘉選手は身長158センチと小柄ながら、精度の高いアイアンショットを武器に勝利を積み重ねた。自らの強みを理解し、最大限に力を発揮する比嘉選手の戦いぶりは後に続く沖縄の子どもたちに勇気を与えた。
 アマチュア時代から全国大会優勝や世界大会出場など実績を積み上げた。17年にプロに転向し、19年にはツアー初勝利、21年に2勝目を挙げた。特に今季は初の国内メジャー大会制覇を含む4勝を挙げ、全英オープンにも出場、充実した1年だった。
 比嘉選手の強みは、なんと言っても安定性にある。今季国内男子の22日時点でのランキングを見ると、平均飛距離でトップの河本力選手が318ヤード飛ばすのに対し、比嘉選手は285ヤードの47位で約30ヤード及ばない。だがフェアウエーを捉える割合と飛距離を足した「ドライブランキング」で、比嘉選手は19位に浮上する。ホールごとの規定打数を超えないパーセーブ率で比嘉選手は1位だ。
 飛距離ではかなわなくても正確なショット、安定したプレーで上位に食い込んだことが好結果につながった。22試合に出場し、トップ10入りが1位タイの9回という成績がそれを証明している。
 比嘉選手の強さはメンタルにもある。今季2勝目となった試合では、上位3選手がトップに並ぶ混戦の中、冷静な試合運びで勝利をつかんだ。今季3勝目は最終日に5打差をはね返しての逆転勝利。今季4勝目となった試合は賞金王のプレッシャーとも戦いながら3日目に首位に立つと、そのまま逃げ切った。
 高校時代、世界大会に臨む直前の比嘉選手は「どんな時でも諦めない」と取材に答えていた。本部高校でゴルフ部を指導した知念洋史教諭によると「試合と違うプレッシャーを経験するために、英語スピーチコンテストに出場したこともあった」という。
 決して諦めず、異なる環境に自らを追い込み、強さを蓄えていく。比嘉選手の足跡からは才能だけでない、努力の跡もうかがえる。
 プロスポーツで体格的な不利はいかんともしがたい。だが比嘉選手が示したのは、技術的にも心理的にも自らを鍛え、体格の不利を、不利と思わせない実力を備えることだ。スポーツをしながら体格的に恵まれず、悩んでいた全国、沖縄の子どもたちを勇気づける偉業でもある。
 かつて宮里藍さんの活躍に刺激を受け、諸見里しのぶ選手や宮里美香選手、新垣比菜選手らジュニアゴルファーの躍進が始まった。比嘉選手の栄光が再び沖縄ゴルフ界隆盛の契機になってほしい。