<社説>攻撃能力保有自公合意 隣国との信頼醸成が先だ


社会
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 自民、公明両党は、日本に向かうミサイルを他国領域で破壊する敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有することで合意した。政府は保有を明記した国家安全保障戦略など関連3文書を今月中旬に閣議決定する。政策判断で攻撃能力を持たないとしてきた戦後の安保政策を根本的に転換させる。

 これまで米軍を「矛」、自衛隊を「盾」としてきた役割分担は見直され、自衛隊が「矛」に合流する。これでは憲法に基づく専守防衛の理念は完全に形骸化する。攻められたらどうするかの議論ばかりが先走りし、どうすれば武力行使に至らないかの議論が決定的に欠けている。武力衝突の火種を取り除く外交努力を徹底し、隣国との信頼を醸成することの方が先だ。
 自公両党は2日の実務者会合で北朝鮮や中国の高性能ミサイルを念頭に、現行のミサイル防衛システムで阻止するのは困難だとして敵基地攻撃能力保有により抑止力向上を図る必要があると判断した。
 この判断は曖昧な点が多いことも問題だ。攻撃着手の認定を誤れば、先制攻撃とみなされる恐れがあるが、合意内容は「総合的に判断する」と玉虫色だ。攻撃対象の範囲も「個別具体的に判断する」と曖昧だ。自民は相手国のミサイル基地だけでなく「指揮統制機能等」も加えることを求めており、なし崩し的に標的が広がる可能性がある。どう歯止めをかけるかの議論が深まっていない。
 自民保守系議員は「反撃能力を使うか否かの判断は事実上、時の政権の裁量に委ねられる」と述べた。武力行使の判断や統制が緩すぎるからだ。
 そもそも能力保有に伴うリスクについての議論が絶対的に足りない。そんな中、政府は攻撃能力として米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を米側から最大500発程度購入することを検討している。トマホークの射程は約1600キロで、周辺国に「脅威」と映るのは間違いない。
 これでは周辺国と軍拡競争となり「安全保障のジレンマ」に陥る恐れがある。軍備増強で自国の安全を高めようと意図した政策が、想定する相手国に類似の増強を促し、実際には双方とも衝突を避けたいにもかかわらず、結果的に衝突の恐れを増す状況だ。
 攻撃能力保有について岸田文雄首相は「あくまで抑止力を高め、ミサイルなどによる攻撃の可能性を一層低下させるのが基本的な考え方だ」と述べた。政府が進める防衛力整備は、外交力強化の裏付けとなるとの認識も示した。右手に銃を持ちながら左手で握手を求めるような姿勢だ。
 これでは信頼醸成どころか、相手の不信感を助長させる。憲法の理念に基づく専守防衛こそ周辺国との信頼醸成の礎だ。専守防衛に徹した上で有事に至らないための方策こそがもっと議論されるべきで、敵基地攻撃能力保有が先走るのはむしろ危険である。方針転換を強く求める。