<社説>被害者救済法が成立 実効性高める法の運用を


社会
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 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の被害者救済法案が参院本会議で賛成多数で可決され、成立した。救済法は、法人や団体が寄付勧誘に当たって配慮しなければならないとする規定に関し「十分に配慮」とより強い表現とし、怠った場合は勧告や公表をするなど一部修正された。成立後3年をめどとしていた見直し規定も2年に改めた。

 旧統一教会問題をにらんだ新たな救済法が成立したのは一歩前進だ。しかし被害者救済への実効性や規定内容の曖昧さには疑問が残る。法律に不備があれば、2年を待たずに見直すなど被害の実態に即した改定を念頭に置いて法を運用すべきだ。まずは実効性を高めることを求める。
 救済法は被害の「防止」と「救済」が柱だ。このうち防止面では、政府が当初示した概要になかった「配慮義務」が与野党の協議によって盛り込まれた。法人や団体が順守しなければならない配慮義務として(1)個人の自由な意思を抑圧しない(2)寄付者やその家族の生活維持を困難にさせない(3)勧誘する法人を明らかにし、使途を誤認させない―の3点を挙げている。
 その上で「退去困難な場所へ同行」「恋愛感情に乗じて関係が破綻すると告げる」「霊感を用いて不安につけ込む」など6類型を禁止し、取り消し対象としている。借金をしたり生活に欠かせない資金を処分したりして資金を捻出することを求める行為も禁じるなど、これら7項目は行政措置や罰則の対象としている。
 配慮義務は取り消しや罰則の対象ではないが、怠った場合は勧告や公表をされる。与野党協議で「十分に配慮」と、より強い表現が入ったが、「十分に」がどこまで法的効果があるか不透明だ。マインドコントロール(洗脳)下の寄付規制を求めた野党に対し一定程度、歩み寄った形だ。寄付行為が抑制されることや「信教の自由」にも配慮した結果、曖昧さが残る規定となった。
 政府、与党は配慮義務を設けたことで「より幅広い救済が可能」と説明するが、実際どれだけ実効性があるか疑問だ。救済に取り組む弁護士の間には規定内容を「禁止行為にすべきだ」との主張が強い。
 参院消費者問題特別委員会で信者の両親を持つ「宗教2世」の女性は「本当に裁判で実効性を伴うのか検証してほしい」と訴えた。こうした「宗教2世」からは、救済される範囲が限定的などとして、被害者の声を聞いた上で再検討を求める主張もある。一方で法人が一律に規制され、NPO法人などによる寄付行動への影響を懸念する声もある。
 こうした不安や疑問に政府は真っ正面から向き合わなければならない。被害者救済と被害防止を巡り、救済法を実用する際、解決に至らない点を洗い出し、法の見直しにつなげる真摯(しんし)な努力が不可欠だ。法の成立がゴールではない。問題を解決してこそ、法律を成立させた意義がある。