<社説>県が地域外交室設置へ 戦争させない施策展開を


社会
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 県は4月から自治体外交の司令塔となる「地域外交室」を設ける方針だ。沖縄と諸外国・地域の交流促進が目的だ。

 「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」に基づく方針で、計画は「沖縄の歴史と風土の中で培われてきた平和を希求する『沖縄のこころ』を広く国内外へ発信する」とし、アジア・太平洋地域の持続的安定に貢献するため地域協力外交に取り組むとしている。
 県の自治体外交は米中対立が激化している今だからこそ、意義がある。ロシアのウクライナ侵攻を背景に、台湾有事に備えるための軍備増強を求める声が強まっている。しかし軍拡競争は緊張を高める上に偶発的な衝突を招きかねない。県は沖縄を二度と戦場にしないという強い覚悟を持つべきだ。戦争回避のためのあらゆる施策を考え、自治体外交に取り組んでほしい。
 差し迫った課題は偶発的衝突回避に向けた働きかけだ。
 沖縄は広大な米軍基地を抱え、自衛隊の増強も進んでいる。日米の軍事演習は激化の一途だ。昨年8月にはペロシ米下院議長が台湾を訪れたことで中国を刺激し、緊張が一層高まった。中国は対抗措置として台湾周辺で大規模な軍事演習を実施し、日本の排他的経済水域(EEZ)内の波照間島や与那国島周辺にも弾道ミサイルを落下させた。漁業者は軍事演習の頻発で出漁制限に追い込まれた。
 県は、演習などでの偶発的衝突から有事に発展しないよう、米中、日中の防衛当局間の相互通報体制「海空連絡メカニズム」の確実な運用を求めるべきだ。外交・防衛当局高官による「安保対話」など意思疎通強化も促してほしい。
 有事になれば真っ先に戦場になる恐れがある沖縄だからこそ、日米や中国に対話や交流を提案する資格がある。それにはまず沖縄は平和構築のための緩衝地帯になるという意思を明確に示すべきだ。
 沖縄はその役割を担うのにふさわしい。東西冷戦を終結に導いたミハイル・ゴルバチョフ氏は生前、軍縮や気候変動問題の改善、貧困・差別解消などを目指す「人間の安全保障」の発信拠点に沖縄を指名した。平和学者のヨハン・ガルトゥング氏は国際組織本部を沖縄に置き、東アジアの平和の傘構想を積極的に提起すべきだと主張した。政治学者の豊下楢彦氏は沖縄の「独自外交」を提唱し、基地の環境汚染や軍縮問題を見据え、沖縄への東アジアSDGsセンターの設置を提案している。
 玉城デニー知事は国連の場で辺野古新基地建設断念を発信したい意向だという。故・翁長雄志前知事は2015年に国連人権理事会で「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている」と訴えた。沖縄の基地問題は安全保障の問題以前に人権問題であることを世界に発信した。国際人権法は沖縄の自己決定権を保障する礎になれる。沖縄の軍事要塞化が一層進む今、改めて訴える必要がある。