<社説>諫早干拓「非開門」 国は有明海再生に全力を


社会
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 長崎県の国営諫早湾干拓事業について最高裁は、潮受け堤防排水門を開けるよう主張してきた漁業者側の訴えを退ける決定をした。これにより開門を認めず国勝訴とした福岡高裁判決が確定。司法判断は「非開門」で統一され、裁判は事実上、決着した。

 排水門の閉め切りから約26年。潮流の変化などで漁業被害が生じたとして開門を求める漁業者と、海水流入で塩害が生じるなどとして開門に反対する干拓地営農者が鋭く対立、裁判が乱立してきた。
 今回の司法判断で問題は終わりではない。漁業被害がある限り続く。国は有明海の被害に向き合い、再生に全力を尽くすべきだ。巨大公共事業に翻弄(ほんろう)されてきた地域社会の立て直しも急務だ。深刻な分断を解消する責任がある。
 諫早湾干拓事業は、農地造成と低地の高潮対策を目的に国が1986年に着手。総事業費約2530億円をかけ、97年に湾内を全長約7キロの潮受け堤防で閉め切った。堤防内側に農地が整備され、2008年に営農が始まった。
 鋼板が湾をせき止める光景は「ギロチン」と呼ばれた。「宝の海」だった有明海は特産のノリが不作に見舞われ、海底にはヘドロがたまり高級二枚貝タイラギなどが姿を消した。堤防建設が原因とみた漁業者側は開門調査を求めたが、国は因果関係を一貫して認めなかった。
 10年に福岡高裁は漁業被害を認め、5年間の開門調査を国に命じた。当時の民主党政権は上告せず確定した。だが、13年に長崎地裁が営農者側の訴えを認め、開門を差し止める仮処分を決定。相反する司法判断の下で国は「身動きが取れない」と解決を先送りした。一方で自民党政権下で国は14年に確定判決の無効化を求める訴訟を起こした。
 裁判は、漁業者側と営農者側による深刻な対立をもたらした。国の方針は二転三転し、漁業者と営農者双方からの信頼を失った。
 問題の根本には、この公共事業政策の誤りがある。有明海の環境が悪化し、漁業被害が拡大してきたのは事実だ。「動き出したら止まらない大規模公共事業の典型」と指摘されるように、長年失敗を認めず、解決を先送りしてきた国の責任は極めて重い。
 専門家は、排水門を閉め続け潮流が失われたままでは赤潮が大量発生し、海底の生態系が破壊されることは明らかだと指摘する。今回の最高裁決定があったにせよ、国は、その被害から目を背けてはならない。有明海再生に向けた100億円の漁業振興基金案を打ち出しているものの、原因を究明した上で、非開門に固執せず開門を含めた解決策を模索するべきだ。
 有明海再生に向け野村哲郎農相は、国や自治体、漁業、農業関係者らが協議する場を設ける意向だ。開門賛成派・反対派双方が納得できる解決策を導くのは国の責任だ。これ以上、先送りは許されない。