<社説>石垣陸自車両搬入 なし崩し強行許されない


社会
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 陸上自衛隊(陸自)石垣駐屯地に、地対艦・地対空ミサイル部隊関連も含め約150台の車両が、公道を使用して搬入された。さらに弾薬も搬入され、駐屯地として16日に開設する予定だ。16年の与那国島、19年の宮古島、奄美大島に続いて、これで陸自「空白地域」の解消が完了となる。地元の賛否が割れる中、住民への説明が不十分なままになし崩しで進めるやり方は強行と言うほかない。

 2010年の防衛大綱で陸自の「南西シフト」が示されてから、防衛省は15年に石垣市平得大俣への配備計画を市に打診、16年に中山義隆市長の了承を取り付け、18年に中山市長が正式に受け入れを表明した。そして19年3月、県の環境影響評価(アセスメント)条例改正の経過措置期間に「アセス逃れ」で事業に着手した。「石垣島に軍事施設を造らせない市民連絡会」によると、硬い岩盤や豊富な地下水脈のために工事は難航し、終盤は休みなしの昼夜兼行で工事をしていたという。
 18年には「石垣市住民投票を求める会」が有権者の3割を超える1万4263筆の署名を集めたが、議会で否決され、住民投票は実現していない。石垣駐屯地は、於茂登岳中腹に広がる自然豊かな一帯を切り開いて造られた。水源地であり、裾野は農業地帯だ。「住民投票を求める会」は「この場所でいいのかを考えよう」と訴え、多数の署名を集めた。同会は今も諦めず、住民投票実施を目指して二つ目の裁判を闘っている。
 昨年末の安全保障関連3文書閣議決定で、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有が打ち出されたことで住民はさらに不安を募らせた。石垣にも配備される12式地対艦ミサイルを改良して長射程化することが盛り込まれたからだ。相手領域に到達するミサイルは、標的になる危険、攻撃の応酬になる危険が大きくなる。
 閣議決定の3日後に、石垣市議会の与野党がそれぞれ長射程ミサイル配備に懸念を示す意見書を提出し、両方が可決された。野党側意見書は「容認できない」とし、与党側意見書は「あくまでも専守防衛のための自衛隊配備との説明がなされてきた経緯がある」と指摘し「十分な説明を強く求める」とした。
 長射程ミサイル配備について、小野功雄沖縄防衛局長は1月の中山市長との面談で「今のところ全く予定はない」と述べた。しかし、浜田靖一防衛相は今月2日の国会答弁で「これもどうなるかは分からない」と将来については含みを持たせた。
 米軍基地問題でも政府はこれまで見切り発車、なし崩しで既成事実化を重ねてきた。今回の陸自南西シフトも同様ではないか。いったん基地ができれば、基地内の訓練も、装備の変更も、米軍と一体となった演習も、なし崩し的に実施されることが危惧される。軍備に頼らずに平和を構築する道を目指すべきだ。