<社説>陸自石垣駐屯地開設 敵基地攻撃で住民守れぬ


社会
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 敵基地を攻撃する兵器で何を守るのだろうか。市民の意思を問うことなく、「軍は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を省みないまま石垣島で軍備増強が進められた。市民の平穏な生活と島の未来が脅かされないか、強い危機感を抱かざるを得ない。

 陸上自衛隊の石垣駐屯地が開設された。接近する艦艇を陸地から攻撃する「12式地対艦誘導弾」や、上空の標的を狙う「03式中距離地対空誘導弾」を運用するミサイル部隊を置く。
 防衛省は南西諸島を「防衛の空白地域」と捉え、2016年に与那国駐屯地、19年には宮古島と鹿児島県奄美大島にも駐屯地を開設した。石垣駐屯地の開設で「南西シフト」の部隊配備は大きな節目を迎えた。しかし、今回の駐屯地開設を石垣市民全てが歓迎しているわけではない。
 中山義隆市長は18年、「南西諸島圏域の防衛体制・防災体制の構築」を理由に、防衛省の配備要請を受け入れたが、市民の間では賛否は分かれた。特に配備予定周辺4地区では多くの住民が反対していた。自衛隊配備の是非を問う住民投票が提起されたが、「国の専権事項で一地方の住民投票にはなじまない」などとして市議会は住民投票条例案を否決している。
 地元の反対を押し切り、市民全体の意向を確認することなく、防衛の「空白解消」が推し進められた。このことは石垣島の将来に大きな混乱を起こしかねない。その予兆は既に表れている。
 昨年末に閣議決定された安保関連3文書に基づく敵基地攻撃能力(反撃能力)保有の方針に沿って、石垣島駐屯地に配備されるミサイルの長射程化が進む可能性がある。専守防衛を逸脱し、自衛隊の機能は「盾」から「矛」へと変わるのだ。地域に緊張をもたらし、有事の際には他国の標的となる恐れがある。敵基地攻撃能力で住民を守ることはできない。市民は不安と疑問を抱いている。
 石垣市議会の与野党は長射程ミサイル配備への反対意思や懸念を表明する二つの意見書を可決した。いずれも石垣島が敵基地攻撃の発射地となることへの市民の懸念を反映したものだ。玉城デニー知事は「地域の緊張を高め、不測の事態が生じるのではないかという懸念がある」と述べ、長射程ミサイルの県内配備に反対している。なし崩し的なミサイル長射程化は許されない。
 沖縄戦当時、石垣島に配備された日本軍の命令で山中に強制移動した住民の多くがマラリアの犠牲になった。軍隊組織は住民を守ることができず、時には生命を脅かす存在になり得ることが島の歴史に刻まれている。その教訓からも、市民は敵基地攻撃能力を保有する可能性がある陸自石垣駐屯地を容易に受け入れることはできないのである。
 市民、地域住民不在の防衛政策など成り立たない。政府はそのことを認識すべきだ。