<社説>レーダー北大東配備 村民生活の安全が優先だ


社会
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 政府・防衛省は沖縄の島々を本気で防波堤にするつもりなのか。海に囲まれた島には住民がいるということを認識しているのか。厳しく問わなければならない。

 航空自衛隊の移動式警戒管制レーダーの配備計画を進める防衛省は調査の結果、北大東村が配備に適していると判断した。6月30日、村や村議会に配備を検討する考えを伝えた。防衛省は今月20日、住民説明会を開く予定だ。
 防衛省は北大東島の地理的優位性を列挙し、国土防衛におけるレーダー配備の必要性を村民に力説するはずだ。しかし、何よりも優先されなければならないのは村民生活の安全である。村民は本当にレーダーを望んでいるのか。
 自衛隊の「南西シフト」を推し進める防衛省が宮古、石垣、与那国に配備した駐屯地は住民生活を圧迫する存在になっている。特に敵基地攻撃能力(反撃能力)を備えたミサイル配備の動きがある石垣では、有事の際、標的となる恐れがあるとして住民の不安が広がっている。北大東村も同じ状況になりかねない。
 北大東村へのレーダー設置は中国軍の活動に関するデータ収集を目的にしているとみられる。これまで太平洋側の島しょ部は警戒管制レーダーや地上電波測定装置を設置しておらず、警戒監視・情報収集の空白地帯となっていた。部隊規模は要員30人程度が見込まれている。
 一方、北大東村議会は2021年、自衛隊誘致の意見書を可決した。「国家の安全保障・防衛基盤充実の地理的観点から北大東村は自衛隊配備の適地である」というのが意見書の趣旨である。急患搬送や災害対応への期待もあった。
 レーダーの設置場所を求める防衛省にとって意見書可決は渡りに船であった。省内で大東島へのレーダー配備が議論されていたのである。
 しかし、この意見書は村民の総意と言えるのだろうか。村議会の動きを唐突に受け止めた村民もいた。今回の防衛省の意思伝達にも戸惑いの声を上げる村民がいる。
 仮にレーダー部隊が配備された場合、何らかの訓練が実施されると村民生活に少なからず影響が出よう。「脅威の拡大」や「抑止力向上」などを名目に新たな装備や要員を追加する可能性がある。このことまで予想した上での意見書なのか疑問が残る。
 78年前の沖縄戦に際し、大東諸島(北大東島、南大東島、沖大東島)には人口5800人を上回る7700人の日本兵が派遣され、陣地構築には住民が動員された。大規模な住民疎開も実施された。沖縄戦では激しい空襲と艦砲射撃にさらされた。
 沖縄戦と今日の状況は無関係とは言い切れない。戦前のような住民疎開や攻撃にさらされるような事態が繰り返されてはならない。住民の生活を脅かす恐れがある以上、空自のレーダー配備を受け入れるわけにはいかない。