<社説>日本、NATO連携拡大 戦争当事国への暴走やめよ


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 岸田文雄首相は、欧米の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)との協力拡大を盛り込んだ新文書「国別適合パートナーシップ計画」(ITPP)を発表した。NATO部隊演習への自衛隊の参加拡充や緊急援助の共同行動を明記したほか、サイバー防衛対処、宇宙安全保障などで連携する。中国をにらんだ軍事協力の拡大だ。

 岸田首相はロシアと戦争をしているウクライナに対し、対無人航空機検知システムなど殺傷性のない装備品の供与を進めることも表明した。
 ロシアによるウクライナ侵攻から既に約1年5カ月がたち、戦争は長期化の様相を帯びている。長期化すればするほど、ロシアと欧米との正面衝突の危険性も増す。NATOとロシアが正面から衝突すれば、日本も戦争当事国となり、戦争に巻き込まれる恐れがある。NATOとの軍事連携強化は危険だ。国会での議論もない。岸田首相は暴走をやめ、早期停戦に向けて働きかける役割を担うべきだ。
 新文書は、協力分野を従来の9項目から16項目に拡大した。海洋安保や軍縮・不拡散といった従来の項目に加え、偽情報対策、人工知能(AI)を使った新興破壊技術などにも対象を広げた。
 これについて識者からは、武力による威嚇や武力行使は国際紛争を解決する手段としては永久に放棄するとした憲法9条に違反するとの指摘がある。集団的自衛権行使を可能にし憲法違反と指摘されている安全保障法制(2015年成立)は国内法であり、実際に運用されない限り憲法違反にならないが、日本とNATOの新文書はすぐに運用されるため、9条違反は明白だという批判である。
 憲法違反の既成事実化は厳しくただされるべきだが、国民的議論はおろか、国会での議論さえない。日本が戦争当事国への道をまっしぐらに走る状態を止めねばならない。
 ロシアが核兵器使用をほのめかす中、米国がウクライナ支援として殺傷能力の高いクラスター(集束)弾の供与を表明した。極めて危険な状況だ。そんな中、NATOが日本に連絡事務所を開設する案も浮上した。中国との緊張につながることを懸念するフランスが反対したことで先送りされているが、中国は警戒感を強めている。
 岸田政権が昨年、中国の軍事動向を「最大の戦略的な挑戦」と明記した安保3文書を閣議決定して以来、日中関係は急激に冷え込んでいる。日中に今、求められるのは、武力による挑発ではなく、対話による緊張緩和である。
 一方、ブリンケン米国務長官と中国外交担当トップの王毅共産党政治局員が会談し、偶発的な衝突の回避に向け高官対話を加速させている。日中においても、政府高官や首脳による会談を重ね、緊張緩和への道筋を探るべきだ。岸田首相に憲法9条を順守する姿勢への方針転換を求める。