戦時中、細菌兵器開発のため、捕虜らへの人体実験を重ねた日本軍の731部隊(関東軍防疫給水部)の「職員表」を含む公式文書が発見された。
731部隊に関しては敗戦時に関連文書の焼却が命じられたこともあり、全容は未解明のままとなっている。まだ文書が残されている可能性もある。政府は責任を持って資料収集を進め、積極的に実態を解明すべきだ。
731部隊は旧満州(中国東北部)を支配した関東軍の部隊の別称。日本陸軍が1933年に創設した。
隊員の証言や記録などによると、捕虜を細菌に感染させ死ぬまで観察するといった人体実験を繰り返した。
敗戦時、命令によって多くの資料が焼却され、大半の施設を爆破して証拠隠滅を図ったとされる。ほとんどの隊員は戦後も証言することなく、幹部が責任を問われることもないままとなった。
実態の解明は研究者らの努力による。証言の収集や文書の発掘を重ねてきた。
2018年には西山勝夫滋賀医科大名誉教授の請求によって隊員ら3607人の実名や連絡先が記載された「留守名簿」を国立公文書館が開示した。隊員ほぼ全員の実名が公文書で示されるのは初めてだったという。
今回の「職員表」を含む公式文書は明治学院大国際平和研究所の松野誠也研究員が発見した。留守名簿にはなかった部隊構成や隊員の所属が記されていた。731部隊以上に実態が未解明の細菌戦部隊、100部隊(関東軍軍馬防疫廠(しょう))の職員表も含まれており、研究の進展の手掛かりとして期待される。
捕虜らの生体解剖まで行い、多くの犠牲者を出した部隊の残虐性や非人道性は何によってもたらされたのか、戦争の実相を正しく継承していくためにも検証する必要があるはずだ。
継承の前提として、日本政府は過去の罪に正面から向き合わなければならない。しかし、その姿勢はあまりに消極的である。
中国ではペスト菌に感染させたノミなどで細菌攻撃を行ったとされるが、政府は細菌戦について「さらなる調査を行い、明確な形で事実関係を断定することは極めて困難」との答弁書を決定している。つまりは細菌戦の証拠はない、との認識だ。
今回の新資料は戦後、厚生省(現厚生労働省)が保管し、国立公文書館に移管されていた文書である。米国が入手後、日本に返還したとされる資料を含め、政府は関連資料を積極的に探索し、公表する必要がある。
凄惨(せいさん)な人体実験を伴う研究がどのように始まり、戦争末期までなぜ続けられたのか。政府は部隊の実態解明に乗り出すべきだ。過去の罪に真摯(しんし)に向き合うことがなければ、近隣諸国との真の友好関係の構築は難しい。