<社説>見舞金再び認めず 不条理極まりない判決だ


<社説>見舞金再び認めず 不条理極まりない判決だ
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 2008年に公務外の米兵2人が沖縄市で起こしたタクシー強盗致傷事件で、被害者遺族が米兵2人を相手取った別訴訟で損害賠償が確定しているのに、国が省令に基づく支給処分をしないことの違法性が問われた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部は遺族側の控訴を棄却した。

 米側が支払った見舞金が確定した賠償金に満たなければ、日本政府が差額を穴埋めする「SACO見舞金」制度が争点だった。国は見舞金制度について国の裁量により救済を必要と認めて支給する制度であり、被害者に法的権利を保障するものではないと主張してきた。
 被害者の立場に立ち救済しないのなら国は自ら制度を形骸化させているのに等しい。基地の提供義務を負っていながら、その結果に伴う被害を救済しないのは無責任だ。責任をまっとうしない対応を司法が追認した判決といえよう。不条理極まりない。国は被害者を救済のための実効性ある制度を新設するべきだ。
 事件は、米海兵隊伍長と1等兵の少年が、現金を奪おうとタクシー運転手の男性を酒瓶で殴るなどの暴行を加え、頭部裂傷や頸椎(けいつい)捻挫などの重症を負わせたものだ。2人は強盗致傷容疑で逮捕、起訴され、共に実刑判決を受けた。その後、男性はPTSD(心的外傷後ストレス障害)など後遺症に苦しみ、補償が果たされないまま、病気で亡くなった。
 事件発生から今年で15年たつが、別訴訟で確定した損害賠償金約2642万円のうち、遺族に支払われた見舞金は米側からの約146万円のみだ。亡くなった男性の息子が原告として法廷闘争を続ける理由は見舞金だけではない。父の無念を晴らすため、公務外米兵による事件被害者の支援制度確立を目指している。上告する方針だ。
 高裁判決は、SACO見舞金支給について、国と被害者の合意によって支払われるものとし、国の行政としての処分性を否定した。支給制度は閣議決定に基づき、「(支払いを)努力する内容が示されたにとどまる」と指摘した。一審の那覇地裁は、国と被害者の間で締結された「贈与契約」としていた。
 その国との「合意」が問題なのである。被害者救済が国の裁量で決められる。被害者にとっては、米兵に損害賠償を求めても賠償金を実際に得られるかどうかのハードルが高い上、国が賠償額を穴埋めするのは、損害賠償請求訴訟で確定判決を得ていることが条件だ。時間がかかり必然的に遅延損害金が発生するが、国は損害金を求めないことを約束させる受諾書の提出を要求、遺族はこれを拒否した。
 SACO見舞金は1995年に起きた少女乱暴事件をきっかけに米兵らの不法行為による被害救済のため96年に創設された。その趣旨を実効性あるものにするよう、国に対し責任ある対応を求める。