<社説>知事の国連演説 国際社会への訴えに意義


<社説>知事の国連演説 国際社会への訴えに意義
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 玉城デニー知事がスイス・ジュネーブで開催中の国連人権理事会で演説し、過重な基地負担によって平和が脅かされている状況を訴え、辺野古新基地建設に対する強固な反対の民意が日本政府に顧みられないことを説明した。沖縄の実情に国際的な関心を寄せてほしいとも求めた。

 地方行政の長がなぜ国連で発言せざるを得ないのか。そこに注目してもらいたい。
 基地問題の解決を訴え、歴代の沖縄県知事は訪米要請行動を繰り返してきた。1985年の西銘順治氏に始まり、今年3月の玉城知事による訪米まで歴代6人が赴き、計22回を数える。普天間飛行場の返還を中心とする基地問題が焦点だった。
 2013年の仲井真弘多知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認後、新基地建設阻止を掲げて当選した翁長雄志知事は15年9月、国連人権理で都道府県知事として初演説し、「沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている」と述べ、基地建設強行が民意に反することを訴えた。
 今回の玉城知事も沖縄の状況について「意思決定への平等な参加が阻害されている」と訴えた。沖縄の現況は前回の知事の人権理演説から改善されていないのである。
 これに対する日本政府の反論が辺野古移設が「唯一の解決策だ」と紋切り型で、沖縄に対する強硬姿勢を如実に示している。
 なぜ民意は受け入れられないのか、なぜ過重な基地負担が続くのか、沖縄側からの疑
問に全く向き合おうとしない。だからこそ翁長氏に続いての国際社会への訴えとなった。
 辺野古埋め立てを巡る国と県の訴訟は、不承認取り消しと是正指示が違法と主張した県の敗訴が確定した。斉藤鉄夫国土交通相は沖縄防衛局による軟弱地盤改良工事の設計変更申請を承認するよう玉城知事に勧告文を送った。
 18日の日米外相会談は台湾海峡の安定維持を確認した。背後に南西諸島の軍備増強という中国への対抗措置を構えてのことだ。
 知事は人権理で軍備増強は「沖縄県民の平和を希求する思いとは全く相いれない」と訴えた。人権理は世界の人権保護を目的に、各国の人権状況を監視し、改善を促すことを役割とする。2006年には前身の人権委員会が任命した特別報告者が東京や沖縄でのヒアリングを通じて過度な基地負担と差別を指摘する報告書をまとめている。
 国連の人権機関は各国の国内手続きでは救済されない人権侵害について着目してきた傾向があるとされる。その場で知事が直接訴えることができたことの意義は大きい。
 一方、前回、翁長氏の訴えの柱だった「沖縄の自己決定権の侵害」に玉城知事はスピーチで言及しなかった。国連での日程の中で自己決定権を巡る状況についても訴えることが、国際世論への訴えには欠かせないはずだ。