<社説>精神障がい者傍聴制限 共生社会へ意識改めよ


<社説>精神障がい者傍聴制限 共生社会へ意識改めよ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 県内の9市町村の教育委員会会議の傍聴人規則で、精神障がい者の傍聴を禁止する表記が昨年末の時点まで残っていた。障害者差別解消法が施行された2016年以降も放置されていた。

 日本は14年に国連で採択された「障がい者権利条約」を批准し、16年に国内の法整備の一環として障害者差別解消法を施行した。同法では、行政機関による不当な差別的扱いの禁止(第7条)、合理的配慮の提供(第8条)を定めている。精神障がい者の傍聴を禁じた9市町村の教育委員会会議傍聴人規則は同法に抵触していた恐れがある。
 精神障がい者らでつくる市民団体「心の旅の会『市民精神医療研究所』」(静岡県)が実施した調査によると、教委での傍聴制限が昨年まであったのは沖縄市、糸満市、与那原町、本部町、竹富町、北中城村、読谷村、多良間村、伊江村。いずれも1972年の公布当時のままの「精神に異常があると認められる者」「精神病者」などの傍聴を禁止するとの表記を残していた。
 同団体の指摘によって8市町村が削除、1村が削除を予定している。この条項に基づき傍聴人を排除したという事実は確認されていない。表記だけが規則策定時のまま残っていたとみられる。
 全国調査した「心の旅の会―」の寺澤暢紘さん(78)は「差別への無自覚、無意識を強く感じている」としている。障害者差別解消法の施行が決まった後も担当部署が傍聴人規則に問題のある表現がないか精査しなかっただけで、差別しているという意識はなかったはずだ。だが、条例や規則に沿って業務を遂行する行政機関として緊張感に欠けていたのではないか。「無意識の差別」だと指摘されても仕方ない。
 そもそも、教育委員会会議は市民に開かれた場であり、障がいの有無で傍聴を制限するべきではない。仮に通院歴があったり、投薬治療中であったりしても、その人が会議の進行を妨げる恐れがあると決めつけることはできない。
 日本福祉大学の青木聖久教授(社会福祉学)は「公布当時は精神疾患が日本国内で回復の見込みのない遺伝的疾患との認識だった。国を筆頭にそのような勘違いが全国で根強くあった」と指摘し、欠格条項が当然のように記載されていた背景を分析している。
 玉城デニー県政は「持続可能な沖縄の発展」と「誰一人取り残さない社会の実現」を掲げるが、そのためには障がいのある人を含めた全ての人が参画する共生社会の構築が不可欠だ。
 差別や偏見をなくす旗振り役となるべき行政機関が誤解に基づいた規則を放置してはならない。このような表記が他にも残存していないか、自治体は調査してほしい。共生社会の実現に向け、行政だけでなくわたしたち一人一人も自分ごととして意識を改める必要がある。