<社説>水俣病判決 国は根本的な救済を急げ


<社説>水俣病判決 国は根本的な救済を急げ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 国は患者認定と救済に躊躇(ちゅうちょ)すべきではない。根本的な救済策の確立を急ぐべきだ。

 水俣病の未認定患者救済のため2009年に施行された特別措置法に基づく救済策から漏れた128人が、国や熊本県、原因企業チッソに損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は全員を水俣病と認定し、損害賠償をするよう被告側に命じた。
 判決は「原告らの症状は水俣病以外に説明できない」と明快に判断した。厳しすぎるとの批判があった患者の認定基準や、救済対象を限定した特措法の是正を迫ったと言える。同様の裁判は東京、新潟、熊本の各地裁でも争われており、従来の救済策の是正を迫る本判決が影響を与える可能性がある。
 水俣病問題の「最終解決」として施行された特措法でも救うことができない患者がいることが明白となった。救済策の根本的な転換が求められている事実を国は直視すべきである。
 特措法の救済策は不知火海周辺の熊本、鹿児島両県の9市町に1968年までに1年以上住んでいたことや、69年11月末以前に生まれたことが条件とされた。救済の対象範囲を限定したのである。特措法によって3万8千人に一時金が支給されるなどしたが、症状があるのに法の対象から漏れる人が出ていた。
 大阪地裁判決は特措法による救済策の線引きにノーを突きつけた。熊本、鹿児島両県の9市町の対象地域外や年代外でも、水銀に汚染された魚介類を多食すれば水俣病を発症する可能性があると判断したのだ。特措法の対象外とされた人を司法が患者と認定するのは初めてだ。
 今回の判決は、従来の国による救済策の見直しを強く求めるものでもある。
 水俣病は「公害の原点」とされる。新日本窒素肥料(チッソ)水俣工場付属病院で水俣病が公式に確認されたのは56年である。チッソの責任を初めて認め、患者や家族への損害賠償を命じた73年3月の熊本地裁判決から50年が経過した。87年3月の熊本地裁判決は国と熊本県の責任を初めて認め、患者救済の対応を求めてきた。
 しかし、国による患者救済策が大きく前進したとは言いがたい。今回の判決も含め、救済対象をできるだけ限定しようとする国に対し、司法が厳しい判断を下すというのがこれまでの経過である。このような消極姿勢では患者の救済はままならない。
 今回の判決を受け、原告弁護団は「裁判をしていない被害者も救済される恒久的な救済システムの導入」の必要性を訴えている。当然の訴えであり、国はそれに応えるべきである。
 水俣病の初確認から67年が過ぎ、患者の高齢化が進んでいる。これ以上、患者救済を遅らせてはならない。水俣病特措法に代わる救済策の確立に向けた議論を進めるべきだ。