<社説>インボイス始まる 零細業者重視し見直しを


<社説>インボイス始まる 零細業者重視し見直しを
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 消費税のインボイス制度が1日、始まった。

 インボイスは、売り手の事業者が買い手に対し、消費税の適用税率や額を伝える請求書類で、納税額を正確に計算するのに用いる。制度に参加する事業者が発行できる。
 消費税の納税義務がある課税事業者はこれまで、売り上げの消費税額から仕入れの消費税額を差し引いた分を税金として納めていた。今後は制度に参加せず、インボイスを発行しない事業者との取引では消費税額の差し引き計算ができず、税負担が増える。
 一方、消費税の免除事業者も制度に参加すれば納付義務が生じ、手取りが減ることになるが、参加しなければインボイスを発行できず、取引から除外される恐れがある。
 このため法人との取引が多いフリーランスや零細業者から反対が根強い。コロナ禍や物価高、円安で国民の多くが苦しんでいる実態を踏まえた制度とは到底思えない。複雑な内容の周知も不十分で、なぜ今導入なのか疑問だらけだ。業者間の分断を生む恐れもあり経済浮揚の障害にもなりかねない。
 まずは零細業者の暮らしを重視し、制度を早急に抜本的に見直す必要がある。混乱が生じれば一時停止すべきだ。
 インボイス制度は、消費税率が10%に上がった際、食料品などに8%の軽減税率が導入されて複雑になったため「適正な価格表示」を名目に導入された。これまでは小規模事業者に配慮し、事務負担軽減のため消費税分を手元に残す仕組みだった。反対が根強かった消費税を導入するための、いわゆる「アメ」だ。
 インボイスはその免税分を標的にした課税制度だ。免税事業者は制度への不参加を選べるが、結果的に課税事業者への転換を強いられる制度設計となっている。零細業者から徹底的に消費税を搾り取るための仕組みといえる。
 激変緩和のための特例措置があり、負担は時限付きで一定程度軽減されるものの、零細業者にとっては深刻だ。
 一方、制度に参加した課税事業主も苦慮する。取引先が制度不参加なら税負担が増える。だが一方的な取引打ち切りや単価引き下げは独禁法違反の恐れがある。人手不足の中、不参加の取引先を簡単に切れない事情もあろう。一方的対応で法令違反の恐れがあるため公正取引委員会が注意した事例は既に35件に上る。
 岸田文雄首相は今月中にまとめる経済対策に必要な支援策を盛り込むよう関係閣僚に指示した。だが新たに生じる税負担軽減を図る既存の特例措置を周知徹底することなどが柱になり、追加支援策は限定的となる見通しだ。政府与党内からは「ガス抜きに過ぎない」との声も漏れる。
 インボイス導入はさらなる消費税引き上げの布石との見方もある。ただでさえ生活が苦しい零細業者を追い詰める制度は、消費税の在り方を含めて抜本的に見直すべきだ。