<社説>国が代執行提訴 政府の専横が露呈した


<社説>国が代執行提訴 政府の専横が露呈した
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 あくまでも「国の論理」で沖縄を組み敷くつもりなのだろう。これによって問題に片が付くなどと政府が考えているならば大きな誤りだ。

 米軍普天間飛行場の返還に伴う辺野古新基地建設で、斉藤鉄夫国土交通相は5日、大浦湾側の軟弱地盤改良工事の設計変更を玉城デニー知事に代わって承認する「代執行」に向け、福岡高裁那覇支部に訴訟を起こした。沖縄に対する政府の専横が露呈した。
 国が勝訴すれば高裁は知事に承認を命じることができる。それでも知事が応じなければ国交相が代わりに承認し、防衛省は軟弱地盤改良工事に着手できる。
 新基地建設を巡る国との法廷闘争で県は厳しい結果を突き付けられてきた。だからといって後ずさりすることはない。新基地建設を拒否する「沖縄の論理」に基づき、政府が固執する新基地建設計画のごまかしを明らかにしてほしい。新基地で沖縄の負担が軽減することはない。
 国交相が設計変更申請を承認するよう「是正の指示」を出したことの違法性が争われた訴訟で、県の敗訴が確定した先月4日の最高裁判決以来、政府の強行姿勢は一層あらわになっている。
 判決から15日後の19日、政府は国連人権理事会出席のため玉城知事がスイス・ジュネーブに滞在しているにもかかわらず、「27日まで」という期限を付けて承認勧告を県に発出した。その際、知事は「異様」という言葉で政府の対応を批判している。
 玉城知事は期限の27日に「期限内の承認は困難」と回答したところ、政府は翌28日、「10月4日まで」という期限を付けて承認指示を出した。4日、再び玉城知事が「承認困難」と回答すると政府は提訴に踏み切ったのだ。
 矢継ぎ早に県を追い込むような政府の姿勢は玉城知事が言うように、まさしく「異様」である。およそ民主主義を標榜(ひょうぼう)する国家の態度とは言えない。
 一連の裁判は、設計変更申請を県が不承認にしたことに対し、私人を救済するための制度である行政不服審査法に基づいて沖縄防衛局が「私人」の立場で、同じ政府機関の国交相に審査請求したことに端を発した。法の趣旨をゆがめてまで意思決定を覆すものと県は主張した。
 最高裁判決に対し、玉城知事は「地方公共団体の主体的な判断を無にするものであり、地方公共団体の自主性や自立性、ひいては憲法が定める地方自治の本旨をも蔑(ないがし)ろにしかねない」と述べた。この批判に政府は真摯(しんし)に向き合うべきではないか。
 松野博一官房長官は5日の会見でいつものように「地元に丁寧な説明を行い、基地負担軽減に向け全力で取り組む」と述べた。しかし、政府は一貫して問答無用で県に従順を強いてきたのだ。話し合いによる解決を拒んでいるのは政府の側である。