<社説>ジャニーズ性加害 補償と人権保護最優先に


<社説>ジャニーズ性加害 補償と人権保護最優先に
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 社名を変えたとしても、性加害事件を消し去ることはできない。ジャニーズ事務所は被害を受けた人たちが生涯にわたって抱える苦しみに向き合い、補償と救済を迅速に行うことを最優先すべきだ。

 1962年に創業したジャニーズ事務所でジャニー喜多川氏は少年たちを人気アイドルとして育て上げて、芸能界で揺るぎない地位を築いた。だが、その裏では絶対的な力関係を利用し、数百人の少年たちを虐待していた。
 未成年への性加害が見過ごされた要因にメディアの姿勢がある。ジャニーズ事務所の2回目の会見が2日開かれたが、出席したメディアも性加害問題を長年報道してこなかった当事者である。
 在京メディアの一つ、日本テレビは、喜多川氏による性加害問題に関する報道対応などについての社内調査結果を公表し、ジャニーズ事務所に対するさまざまな忖度(そんたく)があったことを認めた。
 「事務所を怒らせると、キャスティングや取材ができなくなるのではという認識や雰囲気が生まれていた」という実態があった。喜多川氏のセクハラ行為の真実性を認めた東京高裁判決を報道しなかったことについて、当時の報道局幹部は「ゴシップと軽く捉えていた」と答えた。
 所属タレントの出演などを通して強い影響力を持つ事務所に忖度し、沈黙が常態化していたのだ。二度とむごい事件が起きないよう、芸能界とメディアのいびつな利害構造に終止符を打つべきだ。
 ジャニーズ事務所によると、9月に設置した「被害者救済委員会」には半月で478人の申し出があった。補償を求める相談は325人に上っている。まだ被害を訴えることができていない人もいるだろう。「魂の殺人」と言われる性被害を、日本社会が半世紀にわたって見過ごしたのは痛恨の極みだ。
 ジャニーズ事務所は今後、補償と救済に専念し、対応を終えた後に廃業するとしているが、補償と救済の具体的な内容が明らかになっていない。子どもの保護と安全の確保を約束する「グループ人権方針」も公表した。事務所社長で最年長タレントの東山紀之氏は性加害について「見て見ぬふりをしていた」と認めている。同氏が新会社「スマイルアップ」のトップを兼任するが、補償や人権保護を徹底できるのか。経営陣は厳しい視線にさらされている。
 同事務所の2日の会見ではPR会社が特定の記者やフリージャーナリストの氏名と顔写真を載せ、指名しないよう示唆した「NGリスト」を持参していた。都合の悪い質問は回避しようという意図が事務所側にあったのなら、解体的出直しは期待できない。
 このような事件を二度と繰り返してはならない。日本社会にはびこる人権意識の甘さを改め、性加害を許さないという決意を固めなければならない。