<社説>バス路線の減便 県民全体の議論進めよう


<社説>バス路線の減便 県民全体の議論進めよう
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 深刻な人手不足を背景に県内の乗り合いバスの路線縮小が進んでいる。自家用車のない世帯や高齢者、学生にとって大切な公共交通の手段であり、切迫した問題だ。

 人手不足の問題は全国的な課題でもあり、積極的な行政施策が急務だ。身近な公共交通の維持に向け、県民全体での議論を進める必要がある。
 運転手不足による県内主要バス4社の大幅減便は、2019年にもあった。乗務員の高齢化が進んでいた。好調な観光の動向で貸し切りバス需要が増加し、人材が流出したともされる。
 その後はコロナ禍によって利用者が激減。20年4月には沖縄本島を運行するバスについて、日曜・祝日ダイヤで稼働するなどし、全体の運行本数は大幅に減った。
 減便によって各社の売り上げが減少する中、路線運休はどうにか避けようと事業者は努力を重ね、コロナ禍を乗り切ったはずだった。
 ただ、日常が戻る中、少子化による労働力不足によって、業態を問わずに人材の不足は深刻な状態が続いている。減便せざるを得ないことは理解できる。
 4社のうち、東陽と那覇の減便を伴うダイヤ改定は9月から実施され、琉球と沖縄の共同運行路線の減便は16日から北部地域を中心に始まる。熟慮を重ねたダイヤ編成とはなっていよう。ただ、利用者からは乗車のタイミングを1~2時間、早めなければならなくなったといった声がある。影響は避けられないだろう。まずは各社とも丁寧な説明を尽くし、混乱を避けてもらいたい。
 さらなる減便を食い止めるためにも、給与引き上げや勤務体系の見直しなど、待遇、労働環境の改善は避けられない。これらは19年の人手不足の際も含め、これまでも指摘されてきた。改善できない原因を究明する必要がある。
 1980年代には年間7千万人台だった本島内の乗り合いバス輸送人員は、近年は2600万人台で推移したが、コロナ禍で約1800万人と落ち込んだ。ただ、交通系ICカード、路線検索サイトの導入や系統表記の変更など、利用環境の改善で従来より使いやすくなり、利用層にも広がりが出ているはずだ。
 学生や高齢者にとってバスは重要な移動手段だ。その維持が欠かせない。加えてマイカー依存からの転換や交通渋滞の緩和といった課題もある。脱炭素化推進の観点からバスの利用促進は有効な手段である。
 政府は外国人労働者の在留資格の拡充の検討を始め、自家用車を使ったライドシェアの導入も取り沙汰されるが、時期は見通せない。
 共同運行路線の拡大も模索する必要がある。多様なニーズを踏まえたフレキシブルな路線改編も求められよう。通勤時のバス利用を増やすなど、一人一人の行動が安定運行を守ることにもつながる。