<社説>旧統一教会解散命令請求 被害者救済への一歩に


<社説>旧統一教会解散命令請求 被害者救済への一歩に
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 政府は高額献金被害の訴えが相次ぐ世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令を東京地裁に請求した。

 昨年7月の安倍晋三元首相襲撃事件を機に、教団による献金被害が社会問題化した。文化庁の調査で判明した被害規模は1550人で、賠償額や解決金など総額約204億円に上る。今後は裁判所の判断が焦点となる。解散命令請求を被害者救済への一歩としなければならない。
 解散命令請求は宗教法人法の規定に基づく。焦点となったのは、法が定める解散命令事由の「法令に違反」に民法を含むかどうかであった。オウム真理教など過去2件の解散命令は刑法違反によるもので、民法違反を理由とした請求は今回が初めてだ。
 政府は今回、法令に違反する行為には民法上の規律違反や秩序に違反する行為も含まれると解釈し、請求に踏み切った。教団側は民法は含まないとの立場だ。裁判が長期化すれば被害者救済も遅れることになる。政府は調査で得た証拠に基づき、慎重に裁判に臨む必要がある。
 信教の自由との関わりで解散要件を厳格に定める宗教法人法を政権が恣意(しい)的に運用してはならない。情報開示を含め、今回の請求について政府は国民に説明すべきだ。
 一方、解散命令を見越して、教団は資産を海外に移す可能性が指摘されている。そうなれば被害者救済はさらに遠のく。注視が必要だ。
 解散命令請求に向け、文化庁は教団に対して7回の質問権を行使するとともに、全国霊感商法対策弁護士連絡会や170人を超える被害者から情報を収集した。岸田文雄首相の調査指示から今回の請求まで1年を要している。拙速な手続きで裁判に負ければ、教団の主張に「お墨付き」を与えることになるからだ。
 調査を踏まえ、文化庁は献金や物品販売の被害は遅くとも1980年ごろから始まったと認定している。教団は長期間にわたり多数の人々を不安や困惑に陥れ、正常な判断が妨げられる状態で献金や物品購入をさせたという。
 その上で「長期間にわたり多数の人に財産的損害を与えたばかりでなく、家族を含めて看過できない重大な悪影響を与えた」と結論付けた。
 教団をめぐる一連の問題で注目されたのが、信者の親を持つ「宗教2世」の問題である。文化庁の解散命令請求は「宗教2世」が受けた精神的苦痛も大きな根拠となった。被害者ヒアリングでは高額献金の影響で「貧しい幼少期を過ごした」「大学進学を断念した」などの訴えが寄せられた。「宗教2世」も救済の対象としなければならない。
 旧統一教会と政治の関わりは今後も問われることになろう。第2次岸田再改造内閣は1カ月前の発足時、4閣僚が教団との接点があったと指摘された。岸田首相は改めて教団との関係を絶つ明確な覚悟を示すべきだ。