<社説>洞窟ツアー1人死亡 観光客の安全確保徹底を


<社説>洞窟ツアー1人死亡 観光客の安全確保徹底を
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 「探検ツアー」として与那国島の洞窟に入ったツアー客2人とガイド1人が行方不明となり、2人は自力で脱出したものの、客1人が死亡した。八重山署は関係者から詳しい事情を聴くとともに、ツアーを企画した業者への聞き取りなどを進め、ツアーの安全性や実施基準に問題がなかったか詳しく調べる方針だ。

 警察の調査結果はこれからだが、当時は断続的に雨が降っており、それが水位の上昇に影響した可能性がある。原因究明が急がれる。
 近年、「探検」と名の付く観光は「アドベンチャーツーリズム」と呼ばれ、世界の大きな潮流となっている。観光立県の沖縄でもSDGsを意識し、自然を生かした観光として可能性が指摘されている。今回の件を教訓として、観光業界、行政も連携し、再発防止と観光客の安全確保に向け、対策を徹底すべきだ。
 今回の件は与那国島南東部の洞窟で起きた。八重山署によると、ツアーは午前10時半に始まり、所要時間およそ2時間半の予定だった。洞窟に入る際と出た際はガイドがツアー会社に連絡することになっていた。入る際は連絡があったが、出たという連絡がなかったため捜索に至った。
 沖縄気象台によると、その日の与那国島地方は気圧の谷間にあり、雨が降りやすい状況にあった。1時間ごとの降水量は午前3時に13・5ミリのやや強い雨が降り、以降、断続的に雨を観測している。ツアー中だったとみられる午前11時には21・5ミリの強い雨が降っていた。
 日本洞窟学会会員でNPO法人沖縄鍾乳洞協会理事長を務める山内平三郎氏は「県外に比べて雨が降ると洞窟内の地下水の水位が急激に上がりやすい」と指摘し、雨が降った際は洞窟探検は避けるべきだとの認識を示した。その上で、洞窟学会が探検や調査を行う際のガイドラインを設けていることを挙げ「事業者がそれに準じたツアー運営を行っていたかも検証すべきだろう」としている。
 業者のパンフレットによると、ライセンスを取得したガイドがツアーを案内すると説明している。今回のコースは難易度が高く、洞窟探検経験者のみが対象となっていた。業者は今回のケースについて事前準備も含めて対応は十分だったのか検証してほしい。
 世界のアドベンチャーツーリズムの市場規模は70兆円を超えている。地域の自然や文化資源などを旅行内容に取り入れるため、地方都市の観光誘致の好機として日本全国で広がりつつある。沖縄でも、沖縄観光コンベンションビューローがアドベンチャーツーリズムを担う人材育成プログラムを実施している。
 県内の関係者は今回の件を重く受け止め、詳細を把握し教訓としてほしい。行政も業界と連携し、安全確保面の対策を徹底する人材の育成や、ガイドラインの作成と周知徹底などに取り組むべきだ。