<社説>性別変更要件 違憲 手術「強制」は撤廃せよ


<社説>性別変更要件 違憲 手術「強制」は撤廃せよ
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 誰もが生きやすい社会に向けた一歩となる判断だ。

 性同一性障害のある人が戸籍上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術が必要となる性同一性障害特例法の規定が憲法に違反するかが論点となった審判で、静岡家裁浜松支部は「必要性、合理性を欠く」と、憲法違反で無効とする初の判断を示した。
 2004年に施行された特例法は、自認する性別が出生時と異なる人などが戸籍上の性別を変更する要件を定めている。2人以上の医師から性同一性障害と診断を受けた上で(1)18歳以上であること(2)現に婚姻をしていないこと(3)現に未成年の子がいないこと(4)生殖腺がない、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること(5)変更後の性別の性器に似た外観があること―を全て満たす必要がある。このうち(4)と(5)は「手術要件」とされ、事実上、手術を求める内容だ。
 審判では、生殖能力をなくす手術を求める規定が、個人の尊重を定めた憲法13条に違反するかが論点となった。
 家裁浜松支部は審判理由で、「手術は身体への強度の侵襲であり、手術を受けるかを決める自由は憲法13条で保障される」と指摘。「一律に生殖腺除去手術を求めることは必要性・合理性を欠くとの疑問を禁じ得ない」とし、規定は「違憲無効」との判断を示した。
 「手術要件」は事実上、性別適合手術を強制するものであり、本人が望まない手術の強制は、明らかな人権侵害だ。家裁浜松支部の判断は妥当であり、違憲である規定は直ちに撤廃すべきだ。
 世界保健機関(WHO)など国連の各機関は、14年「強制・強要された、または不本意な断種の廃絶を求める共同声明」を発表、本人の同意に基づかない医療処置は、人権侵害として強く非難している。性同一性障害学会など関係団体からも廃止を含めた法改正や新たな法整備を求める声が相次いでいる。
 性別変更の手術要件を巡る家事審判では、最高裁大法廷の決定が近く出される見通しだ。最高裁は19年の決定で性別変更の要件を「合憲」としたが、将来的に変わる可能性も示唆している。特例法制定時と比べ、性同一性障害や性的少数者への理解は大きく進展している。家裁浜松支部の審判理由でも「急激な変化を避けることも、規定の目的の一つ」としながらも「社会的状況の変化を踏まえると、配慮すべき変化の急激さも緩和されたとみることができる」とした。
 司法統計などによると、特例法に基づき戸籍上の性別を変更した人は、20年末までに1万人を超えた。厳しい要件が壁となり、性別変更を諦める人も多い可能性がある。
 自分らしく生きやすい社会において、誰かが取り残されるようなことがあってはならない。最高裁の判断に注目したい。