<社説>米軍犯罪多発 政府は鈍感ではないか


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<社説>米軍犯罪多発 政府は鈍感ではないか
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 重大な米兵事件が起きた。本来ならば政府はただちに事件に抗議し、規律の緩みをただすべきだ。しかし、政府の危機感は希薄だといわざるを得ない。

 今年5月、女性に押し倒すなどの暴行を加えてけがを負わせたとして、県警が6月、米軍キャンプ・シュワブ所属の米兵を強制わいせつ致傷容疑で那覇地検に書類送検していた。那覇区検は7月14日付で傷害罪で略式起訴し、米兵は那覇簡易裁判所から罰金の略式命令を受けた。
 許しがたい事件だ。しかも、米兵は女性にけがを負わせた後、基地内に逃走している。米兵が基地内に逃げれば捜査が及ばないと考えていたのであれば、犯罪を犯した米兵に特権を与え、米軍犯罪の温床となっている日米地位協定の弊害だといえる。
 今回の事件を含め、政府は沖縄で発生する米軍犯罪を深刻に受け止めるべきだ。ところが政府の反応は米軍犯罪に対する県民の不安や憤りとかけ離れている。
 傷害罪で米兵が略式命令を受けたことについて松野博一官房長官は「個別事件における検察当局の事件処理について政府として所感を述べることは差し控えたい」と述べた。再発防止の取り組みについても「当局においては具体の事実に即して法と証拠に基づき、適切に捜査を行っているものと承知している」と答えるにとどめた。
 政府はあまりにも鈍感ではないか。1人の女性が米兵の暴力行為によって負傷したのである。事件に対して米側に強い抗議の意思を示し、再発防止に向けた政府の姿勢を表明すべきである。
 県警のまとめによると、今年8月末現在の米軍構成員などの刑法犯摘発件数(暫定値)は51件で、昨年同期比で16件の増加。摘発者数は39人で14人増えている。
 今月15日には嘉手納基地所属の米兵3人が那覇市の県立首里高校の建物内に侵入したとして、建造物侵入容疑で那覇署に逮捕されている。
 米軍基地と離れた県立高校で事件が起きたことを重大視しなければならない。米軍犯罪は場所を選ばない。付近のホテルには米軍人が多数宿泊していたという。犯罪を抑止するためには根源を絶つ必要がある。基地外のパトロールだけでは効果は見込めない。
 米軍は昨年12月、米兵らの外出・基地外飲酒を制限する勤務時間外行動指針(リバティー制度)を緩和した。その後、米軍犯罪が増加傾向にある。リバティー制度の規制強化を検討すべきだ。厳格な隊員教育も実施しなければならない。その内容は日本側も検証する必要がある。
 米軍事件の抜本的な防止策は米軍基地の整理縮小と兵員削減、日米地位協定の改正である。まずは実効性のある米軍の綱紀粛正に取り組む必要がある。基地あるゆえの人権侵害を止めるため、日本政府は米側と協議を急ぐべきだ。