<社説>ガザ人道危機 即時停戦へ安保理一致を


<社説>ガザ人道危機 即時停戦へ安保理一致を
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 深刻な人道危機にどう対処するか、国際社会が問われている。

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘開始から2週間余。双方の死者は21日までに5700人以上となった。イスラエルが完全封鎖を続けるガザへ支援物資が搬入されたが、民間人の安全が確保されたわけではない。
 国連によると、ガザでは人口約216万人のうち、約140万人が自宅を追われた。食料や燃料も遮断され、飲料水や医薬品も不足している。支援物資が十分行き渡るかも見通せない。
 17日にはガザの病院で爆発があり多くの死者が出た。ガザ保健当局によると、病院では住民数千人を保護していたという。ハマスはイスラエル軍の空爆によるものと主張、イスラエル軍はハマスとは別の過激派組織の誤射とするなど食い違いを見せている。
 これ以上民間の被害を出さないために一刻も早い停戦が求められるが、国連安全保障理事会は機能不全に陥っている。
 国連安保理は16日、ロシアが提出したイスラエル軍とハマスに「停戦」を要請する決議案を否決した。ハマスを名指しで追及していないとして米国や英国、日本などが反対した。18日にはブラジルが提出した大規模戦闘の一時停止を求める決議案に対し、米国が拒否権を行使し、否決された。15の理事国のうち日本やフランスなど12カ国が賛成、英国とロシアは棄権した。
 ブラジルの決議案は、ガザの人道状況改善に焦点を当て、ハマスを非難する一方、イスラエルの名指しを極力避けるなど米国の理解を得ようとした内容だ。米国は「イスラエルの自衛権に言及していない」と拒否権の理由を説明するが、果たして国際社会の理解を得られるのだろうか。
 米国はこれまでもイスラエルを非難する決議案に拒否権を行使してきた。ユダヤ系団体の政治的影響力が強いなどの国内事情が背景にあるとみられる。
 国連安保理では22年2月、ウクライナからのロシア軍撤退を求める決議案がロシアの拒否権行使により否決されたが、今後、米国はロシアを非難することができるのか。大国の論理が優先されるあまり、国際社会が一致できない状況が続いている。
 イスラエル軍は本格的な地上侵攻に踏み切る構えで、バイデン米大統領はイスラエル支援の緊急予算を議会に要請している。ガザの人道支援にも予算を充てるが、地上侵攻に反対しない以上、民間人被害の拡大は避けられない。イスラエルに対し、地上侵攻中止を働きかけるべきだ。
 戦闘の長期化は民間被害の拡大に加え、国際社会の分断も広がる恐れがある。大国の論理を優先するのではなく、即時停戦こそが最大の人道支援であると認識し、一致して行動することが求められる。