<社説>首相所信表明演説 沖縄へのムチが際立つ


<社説>首相所信表明演説 沖縄へのムチが際立つ
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 臨時国会の岸田文雄首相の所信表明演説は、1月の通常国会での施政方針演説同様、沖縄に対する「アメとムチ」の姿勢が示され、ムチが際立つ内容だった。臨時国会では、首相の欺瞞(ぎまん)と矛盾を突く緊張感のある熟議を求める。

 沖縄への言及は3カ所あった。「防衛力の抜本的強化」の項目で「自衛隊の統合運用の実効性をさらに高め、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化します。同時に、基地負担軽減に取り組み、普天間飛行場の一日も早い全面返還を実現するため、辺野古への移設工事を進めます。また、強い沖縄経済をつくります」と述べた。「基地負担」以下は施政方針演説の表現と全く同じだ。引き続き問答無用で新基地建設を進めると、改めて宣言したに等しい。
 今回も、防衛力の抜本的強化を強調した。その上での新基地建設の強行は、沖縄にとって負担が増大するだけであり、ムチそのものだ。「強い沖縄経済をつくります」とも繰り返したが、この文脈では基地と経済をリンクさせていると受け止めるしかない。
 2カ所目の言及は「福島復興と国土強靱化(きょうじんか)」の項目での「沖縄の離島地域をはじめ、電力供給の強靱化に資する電線地中化を加速します」という部分だ。今年、大きな台風被害があったが全国的な問題である。「沖縄の離島地域をはじめ」には唐突感がある。
 先島など沖縄の離島市町村の首長はしばしば国会議員や沖縄担当相に電線地中化の支援を要請してきた。一方、有事に備えた離島などの民間インフラの整備と自衛隊の利用拡大を推進する政府方針がある。今回の文脈では、施政方針演説で述べた「南西地域の防衛体制の抜本強化」と関連していてもおかしくない。
 3カ所目は「全焼した沖縄・首里城の再建現場では、『見せる復興』で復興プロセス自体を観光の『力』にしていました」と述べた部分だ。全国のいろいろな現場を訪ねたとして「そこで見たものは、変化の流れをつかむ、日本人の『力』でした」と例示した中で言及した。有料の文化観光施設の取り組みが「変化の流れをつかむ力」と言えるほどのものか疑問だ。
 今回の所信表明演説は「はじめに」で「岸田内閣は、防衛力の抜本的強化、エネルギー政策の転換、次元の異なる子ども・子育て政策」などで「結果をお示ししてきました」と自画自賛した。しかし、6月に閉会した通常国会では、総額43兆円もの防衛費大幅増額について、具体的な確保策を示さないまま野党の追及を押し切った。少子化対策の3兆円台についても同様だった。原発活用への転換も熟議には程遠かった。
 岸田首相が総裁選で看板にした「聞く耳」を信じる人はどれほどいるだろうか。世論調査で支持率が最低になったことが示す通りだ。沖縄の問題についても、紋切り型の空虚な国会答弁は許されない。