<社説>脳死判定1000件 救える命支える手だてを


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<社説>脳死判定1000件 救える命支える手だてを
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 家族の重い決断と医療関係者の努力によって「命のバトン」がつながれてきた。これからも救える命を支えるための手だてを講じていきたい。

 臓器移植法による脳死判定が累計千例に達したと日本臓器移植ネットワークが発表した。2010年の法改正によって家族の承諾で提供が可能となって以降、脳死判定による臓器提供数が増加している。今年は10月27日時点で100件と過去最多となった。
 1997年10月の同法施行から26年を経て、脳死を許容する考えは徐々に広がったと言える。しかし、国際的に見れば日本の臓器移植は少ない。2022年時点で100万人当たりの臓器提供数は米国44・50人、韓国7・88人であるのに対し、日本は0・88人である。国内で臓器移植を受ける機会は限られている。
 日本臓器移植ネットワークに登録し、日本で臓器移植を希望している人は約1万6千人である。そのうち臓器移植を受けられるのは約400人にとどまる。移植を受けた人の平均待機期間は肝臓は約1年、心臓は約3年、待機者の多い腎臓は約15年を要する。
 大きな課題がある。臓器提供者の不足と臓器移植手術を実施する医療機関が限られていることだ。
 より多くの待機者を救うためには臓器提供者(ドナー)がいなければならない。しかし、脳死判定を闘病中の患者やその家族に強いることはできない。医療者は患者の救命に力を注ぐことが前提であり、治療を尽くした上で、脳死判定による臓器提供という選択肢があることを医療者から家族に提示することが求められる。
 医療者、家族の双方が人の死と向き合う重い手続きである。この「選択肢提示」が臓器提供のきっかけの多くを占めている。臓器移植という医療行為を円滑に進めるためにも、厚生労働省や医療機関の連携による実態調査と望ましい「選択肢提示」の在り方を模索する必要がある。
 「臓器提供意思表示カード」などによる脳死に関する意思表明も重要である。日ごろから家族の間で脳死や臓器提供の是非について議論を交わすことがあってもよい。
 医療機関の確保も欠かせない。厚労省などによると、高度な医療を提供できる全国の医療機関895施設のうち、スタッフや設備の不足で脳死判定し臓器提供できる機関は半数にとどまっている。2019年から23年3月までの間に臓器提供をしたのは180施設であった。地域によってばらつきもある。
 厚労省によると、今年3月までの沖縄の脳死提供数は12件で、人口100万人当たりでは8・2件であった。一方、重い心臓病と闘う県内の児童を県民の寄付活動で支え、海外での心臓移植を実現させた経験がある。
 救える命を県民で支え合う「命のゆいまーる」の構築を考えたい。