<社説>宝塚歌劇団の組織風土 業界全体の抜本改革必要


社会
<社説>宝塚歌劇団の組織風土 業界全体の抜本改革必要
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 来年で110年となる宝塚歌劇団が未曽有の危機に直面している。25歳の所属俳優の急死の原因が、過重労働、いじめ・パワハラによると指摘されているからだ。背景に、歌劇団が伝統としてきた厳しい上下関係と閉鎖性がある。特定の歌劇団の問題にとどめず、日本の芸能・エンターテインメント業界全体の改革の契機とすべきだ。

 警察は自殺の可能性が高いとしている。歌劇団の調査結果発表を前に遺族はコメントを発表し「常軌を逸した長時間労働により、娘を極度の過労状態に置きながら、これを見て見ぬふりをしてきた劇団が、その責任を認め謝罪すること、そして指導などという言葉では言い逃れできないパワハラを行った上級生が、その責任を認め謝罪することを求めます」と訴えた。
 外部の弁護士らのチームによる調査を踏まえて歌劇団理事長は「安全配慮義務を十分に果たせていなかった」と謝罪し、引責辞任を表明した。急死した俳優に過重労働や心理的負荷があったと認めた一方で、ハラスメントは「確認できなかった」とした。
 ハラスメントの否定に遺族側は猛反発した。聞き取りを辞退した俳優が4人いたことや、歌劇団を運営する阪急電鉄の関連企業の役員が調査した弁護士事務所に所属していたことが分かり、厳しく批判された。歌劇団は組織風土改善に向け第三者委員会を設置する。ハラスメントの再検証も必要だ。
 歌劇団の上下関係と閉鎖性の強さは際立っている。入団できるのは下部組織に当たる2年制の宝塚音楽学校の卒業生だけで、入団後も「生徒」と呼ばれる。舞台のノウハウも上級生から下級生へと伝承されてきた。そんな中で「家族などに相談するのも『外部漏らし』と呼ばれご法度」(劇団OG)という組織風土が育まれた。新たな第三者委員会は真相解明の努力を尽くしてほしい。
 契約関係も問題だ。入団5年目までは雇用契約だが、6年目からフリーランス契約となり労働基準法の適用外となる。遺族代理人の川人博弁護士は「劇団業務への専念が求められ、実質的な労働契約だ」と指摘した。
 絶対的な力関係の下の閉鎖的な組織風土は、旧ジャニーズ事務所問題や映画界の問題とも共通する。映画界では昨年、性加害が相次いで発覚し労働実態も問題になった。4月から「日本映画制作適正化機構(映適)」が、フリーランススタッフとの契約関係や労働時間が適正かどうかを審査する制度を始めている。
 長年維持してきた伝統を改革し、歌劇団として立ち直るのは容易ではないだろう。しかし、犠牲者を悼むためにも今、取り組むしかない。業界全体で抜本改革が行われるよう注視したい。組織風土の問題はどの業界にもある。社会から人権侵害をなくす不断の努力が求められる。