<社説>核禁条約締約国会議 日本は核廃絶を先導せよ


<社説>核禁条約締約国会議 日本は核廃絶を先導せよ
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 国連本部で開かれていた核兵器禁止条約の第2回締約国会議は「人類の存亡に関わる核兵器の脅威に対処し、禁止と廃絶に取り組む」との決意を新たに示す政治宣言を採択して閉幕した。

 残念ながら日本政府は核保有国の不在を理由に昨年6月の第1回会議に続き、出席を見送った。核兵器の廃絶をリードするのが日本の果たすべき役割である。核抑止論に固執し続けるのは被爆国日本のあるべき姿ではない。
 被爆者の願いは、2021年に発効した核兵器禁止条約の批准である。広島、長崎両市は今年8月の「平和宣言」は条約批准と締約国会議のオブザーバー参加を求めた。被爆者の願いも同様であろう。
 松野博一官房長官は先月27日の記者会見で、核禁条約への立場や締約国会議への対応について「核兵器のない世界への出口とも言える重要な条約」と述べた。その一方で、条約に核兵器保有国が参加していないことを指摘し、「出口に至る道筋は立っていないのが現状」と説明した。
 松野官房長官の発言に示された政府見解には、日本が核廃絶を先導すべき立場にあるという認識が希薄だと言わざるを得ない。
 核廃絶への「出口に至る道筋」を非核保有国と共に探るのが日本の役割であり、国際社会はそのことを期待しているはずだ。第3回締約国会議は2025年3月に開催される。政府はオブザーバー参加を前向きに検討すべきだ。
 政治宣言は、核抑止論への固執が「核軍縮の進展を阻害している」と指摘した。さらに核による威嚇は「軍縮・不拡散体制と国際平和、安全を揺るがす」と非難している。条約参加国の共通する認識であろう。しかし、日本政府の基本姿勢は異なる。
 今年5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で取りまとめられた核軍縮文書「広島ビジョン」は核廃絶の理想を追求しながらも、「防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争や威圧を防止すべきとの理解」として核抑止論を肯定した。
 核抑止論を前提としたビジョンを被爆地である広島の名を冠して発信したことに、被爆者は深く失望したはずだ。核軍縮に向け、日本は核抑止論からの脱却を目指さなければならない。
 核軍縮の歩みは困難である。ウクライナとガザで激しい戦闘が続き、国際社会は深刻な分断に陥っている。この中で日本は核保有国や核兵器禁止条約を支持する国々を含む国際社会で橋渡し役を担わなければならない。オブザーバー参加はその一歩となる。
 核兵器禁止条約の前文には英字で「ヒバクシャ」(hibakusha)の文字がある。広島、長崎の惨劇、被爆者の苦悩に対し、国際社会が共通の認識を持つことが求められている。まずは日本が条約の理念を核廃絶に向けた指針としなければならない。