<社説>PFOAリスク引き上げ 発がん性、基準値策定を


<社説>PFOAリスク引き上げ 発がん性、基準値策定を
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 世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)が、有機フッ素化合物「PFAS」の代表的な物質で有害とされるPFOAとPFOSの発がん性に対する評価を引き上げた。

 PFOAを4段階中最も高い「発がん性がある」、PFOSを新たに下から2番目の「可能性がある」のグループにそれぞれ分類した。
 「永遠の化学物質」とも呼ばれるPFASは、自然環境中ではほとんど分解されない。発がん性のほか、出生時の体重に影響が生じる可能性が指摘されており、ストックホルム条約で製造や使用、輸出入が規制されている。
 政府は血中濃度などPFASによる健康被害に関する基準値の策定を急ぐ必要がある。現時点で、日本は対策が立ち遅れている。基準値策定だけではない。国内にあるPFOSの実態調査、汚染が疑われる地域での健康診断など取り組むべきことは多い。
 これまで県内ではキャンプ・ハンセン近くに水源を持つ金武町の水道水から国の暫定指針値を超えるPFASが検出されている。
 市民団体「有機フッ素化合物(PFAS)汚染から市民の生命を守る連絡会」が2022年に独自に実施した血中濃度検査では、米国の学術機関が示した健康対策を要する目安値を超えた人が金武町の受検者の66.7%(54人中36人)、北谷町の受検者の66.1%(59人中39人)に上った。
 金武町では、目安値を超えた血中濃度が確認された受検者の一部に、甲状腺の病気や腎機能の異常を示す診断を過去に受けた人もいた。因果関係は不明だが、住民は不安と隣り合わせで生活している。
 米軍だけではない。泡消火剤に含まれるPFASは自衛隊施設や那覇市、県庁の施設から流出している。
 米国の科学、工学、医学の3アカデミーは、PFASのうちPFOS、PFOA、PFHxs、PFNAの4種の合算が血液1ミリリットル当たり20ナノグラムを超えた場合は健康リスクが高いとし、医師が患者に暴露低減を助言する必要があるとしている。
 ところが日本はそうした基準がなく、健康不安が広がっている。環境省は神経や生殖、免疫への毒性や発がん性などに着目し、研究を進める方針だ。一方、伊藤信太郎環境相はIARCの引き上げについて「暴露量に基づくリスクの大きさを示したものではない」と述べているが、危機感が希薄ではないか。これでは国民が抱える健康不安を解消することはできない。
 PFASによって今この瞬間も健康被害に脅かされる人たちがいる。悠長に構えてはいられない。国民の健康を守るため、政府はただちに血中濃度などの基準値策定に取りかかり、具体的な医療サービスにつなげるべきだ。