<社説>官房長官に多額還流 深まる疑惑、首相は説明を


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<社説>官房長官に多額還流 深まる疑惑、首相は説明を
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 自民党派閥の政治資金パーティー券問題で、安倍派(清和政策研究会)の松野博一官房長官が直近5年間で派閥から販売ノルマを超えた売り上げ計1千万円超の還流を受けたとみられることが判明した。岸田文雄首相は松野氏を更迭する方向で検討している。

 高木毅国対委員長、世耕弘成参院幹事長にも1千万円超の還流があったとされる。いずれも政治資金収支報告書に記載はなく、裏金になった疑惑が持たれている。疑惑は政権中枢まで広がった。
 松野氏は国会で「精査して適切に対応したい」と判で押したような答弁を繰り返し、岸田首相は「政府のスポークスマンとしてしっかりと発信してもらう」と擁護した。これでは国民は納得しない。不正を放置するなら、岸田内閣に政権運営を任せられない。実態を解明し、岸田首相自ら説明責任を果たすべきだ。それができなければ、国民は岸田内閣を見放すはずだ。
 疑惑のある3人は安倍派の有力者「5人組」のメンバーだ。松野氏は2019年9月から21年10月まで、安倍晋三会長を補佐し、派内の実務を取り仕切る事務総長を務めた。高木氏は22年8月から事務総長を務めている。
 東京地検特捜部は、関係者に任意で事情を聴いており、事務総長経験者を含めた安倍派議員を13日の国会閉会後に事情聴取するとみられる。政治資金収支報告書への故意的な不記載があるかどうかが焦点だ。政治資金規正法違反に問われる可能性がある。特捜は徹底的に捜査し、真相を究明してほしい。
 自民党の各派閥のパーティー券は1枚2万円が相場で、販売枚数にはノルマがあり、ノルマを超えた分を還流する運用があった。安倍派では派閥側の支出、議員側の収支として、それぞれの収支報告書に記載していなかったという。18~22年に1億円超が裏金になり、少なくとも10人以上が還流を受け、複数は1千万円以上とみられる。二階派にも同様の疑いがある。
 問題は疑惑への対応である。松野氏は国会で「刑事告発され、捜査が行われている」として説明を拒んだ。岸田首相も「捜査に影響を与える恐れがある」として政治資金規正法違反疑惑への言及を避けた。司直が動かなければ疑惑を放置するかのような見解だ。自ら疑惑を払拭する意思がみじんも感じられない。
 岸田首相は派閥パーティー開催の当面自粛を党幹部に指示し、首相在任中、自身が会長を務める岸田派から離脱すると表明した。そんな対応では生ぬるい。松野氏を更迭して済む話でもない。早期に自ら実態を解明して全容を公表し、再発防止策を示すことが筋ではないか。
 岸田内閣は防衛費増額に伴い増税する方針だが、自らの「カネ」の問題をただせないのなら、物価高で苦しむ国民に負担を強いる資格はない。政権から退場するしかない。