<社説>辺野古埋め立て代執行 歴史に刻まれる愚行だ


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<社説>辺野古埋め立て代執行 歴史に刻まれる愚行だ
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 地方自治を根底から覆す暴挙だ。ここまで地方の権限を無視し、民意を押しつぶす政権があっただろうか。

 名護市辺野古の新基地建設を巡り、斉藤鉄夫国土交通相が沖縄県に代わって軟弱地盤改良の設計変更を承認した。国が地方自治体の事務を代執行した初の事例だ。
 代執行訴訟で福岡高裁那覇支部は県に対して承認するよう命じていた。今回の代執行は、県が命令に従わなかったために実行された。裁判所の判決は、国と地方自治体は対等だとした地方自治の原則にもとるものだ。権力の集中と乱用を防ぐはずの三権分立が機能不全に陥っていることこそ憂うべき事態だ。
 代執行に対し、玉城デニー知事は「国策の名の下に、代執行という国家権力によって、選挙で沖縄県民の負託を受けた知事の処分権限を一方的に奪うことは、多くの県民の民意を踏みにじり、憲法で定められた地方自治の本旨をないがしろにするものであり、誠に遺憾だ」と述べた。
 地方自治の本旨は、地域の行政が直面する政治的課題などについて住民の意思を尊重しながら解決を図ることだ。
 沖縄は戦後、米軍基地に絡む事件事故、爆音、環境汚染など、深刻な人権侵害にさいなまれてきた。その上、民意を踏みにじって政府が強行する辺野古新基地建設計画は合理性に乏しい愚策である。
 新基地建設の強行に対する県民の反発は、これ以上の負担を押しつけられることに対する当然の抵抗である。2019年の県民投票で約7割が新基地に反対した結果にも反映された。こうした県民の思いをくんで玉城知事は設計変更を承認しなかった。
 改良工事が必要な大浦湾の軟弱地盤を巡っては、米軍が1960年代、大浦湾に飛行場建設を検討した際のマスタープラン(基本計画)で存在が指摘されていた。防衛省も2007年段階で存在を把握していたが、追加の調査などは行わないまま、軟弱地盤をひた隠しにして埋め立て申請に踏み切った。通常の公共工事で、こうした不誠実な手続きがまかり通るのか。
 代執行を受け、木原稔防衛相は「普天間飛行場の全面返還に向けた一つの節目だ」と述べている。だが、その実現性は揺らいでいる。
 在沖米軍幹部は完成後も普天間飛行場を使い続けたいとの意向を示している。さらに17年6月の国会答弁で当時の稲田朋美防衛相は「米側との条件が整わなければ(普天間は)返還されない」と答弁した。長い滑走路を用いた活動のための民間飛行場使用などの条件を満たさなければ、返還されないのだ。
 中国脅威論などを背景にした軍備増強を求める声が政府の強硬姿勢を支えている。だが軍備増強の行き着く先を私たちは沖縄戦の教訓で知っている。歴史に刻まれた代執行の愚行に対し、毅然(きぜん)と民意を示し続けなければならない。