<社説>「特定利用」県内12カ所 沖縄の戦場化を回避せよ


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<社説>「特定利用」県内12カ所 沖縄の戦場化を回避せよ
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 政府は安全保障上、必要性が高い空港や港湾など民間インフラ施設を「特定利用空港・港湾(特定重要拠点)」に指定し、自衛隊や海上保安庁などのニーズに基づいて整備する事業を2024年度から導入する。対象施設の候補地は全国32カ所のうち12カ所が沖縄県内で、全国で最も多い。

 政府は空港や港湾の強化は「(住民を避難させる)国民保護にも役立つ」と強調するが、訓練など日頃から軍事活動に使われれば、当然、攻撃の標的となる。
 空港や港湾が攻撃されれば、住民はどうやって避難すれば良いのか。そもそも、沖縄には全国の米軍専用施設の約7割が集中し、さらに自衛隊強化も進んでいる。それに加え民間施設まで軍事利用されようとしている。しかもその対象施設数は全国一多いのだ。まさに軍事要塞化だ。
 1945年の沖縄戦で本土決戦に向けた時間稼ぎの「捨て石」にされた経験をほうふつとさせる。沖縄を再び戦場にするのは絶対に避けなければならない。
 県内の候補地は、那覇、下地島、久米島、宮古、新石垣、波照間、与那国の7空港と、中城、那覇、平良、石垣、比川(新設)の5港。これらは、平時には自衛隊が訓練・演習などに活用するだけでなく、有事には、制空・制海権を確保するために管理下に置かれるとみられる。
 これらの施設は有事の際に住民が避難するために使われるものだ。軍事と民間はどこで線引きをするのか。いざ軍事的衝突が起きれば、軍事優先になることは目に見えている。住民はどこから逃げればいいのか。「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓の通り、自衛隊は住民を守るよりも戦闘を優先するだろう。
 空港や港湾を軍事目的で整備することは沖縄振興の原点とされる、国の「償いの心」にも反する。沖縄戦で甚大な戦災に見舞われた上、その後の27年間、米国統治下に置かれたことに対する国の「償い」は忘れ去られたようだ。
 基地機能強化が進めば進むほど有事の際に標的にされる可能性は高まる。米軍が公共施設を使用すれば、その恐れは一層高まる。政府は、米側が適当な通告をすれば着陸料や入港料を支払わずに民間の空港、港湾を利用できると定めた日米地位協定第5条の規定に沿って使用されるとの見解だ。これでは、基地負担の軽減どころか、負担の大幅増である。
 国際人道法では民間人と軍人、民用物と軍事目標を区別する軍民分離の原則が採られ、分離した上で軍事目標のみを攻撃の対象とすることが求められている。しかし、空港や港湾などを自衛隊や米軍が使用すれば、分離は困難だ。
 公共施設の軍事利用は、有事になれば住民を危険にさらすどころか、避難する手段を奪う。住民の命を顧みない「特定利用」は県民挙げて全力で阻止すべきだ。