<社説>大浦湾着工準備 協議なき着工許されぬ


社会
<社説>大浦湾着工準備 協議なき着工許されぬ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄防衛局が名護市辺野古の新基地建設工事で大浦湾側の埋め立てに向けた海上での準備作業を開始した。代執行で軟弱地盤の改良工事のための設計変更が承認されたことを受け、埋め立てを進めるとみられる。ただ、県との協議は調っていない。国は大浦湾側の着工を見送るべきだ。

 大浦湾側の本格工事は12日にも始まるとされる。防衛局は9日、大浦湾の海域で汚濁の拡散防止のための装置などを設置した。
 防衛局が県に提出した設計変更申請が斉藤鉄夫国土交通相の代執行で承認され、着工は可能との認識なのだろう。ただ、県との事前協議はまだ終えていないのだ。
 事前協議とは、2013年に当時の仲井真弘多知事が埋め立てを承認した際に付けた留意事項に基づく約束だ。実施設計について事前に県と協議するよう定めている。
 防衛局は昨年9月、大浦湾側の護岸工事に関する実施設計と環境保全対策の2件の協議書を県に提出した。
 協議を求められた県は10月、代執行訴訟の係争中であることを理由に「応ずることはできない」と回答している。一方の防衛局は県と既に協議しているとの立場で、両者の見解が食い違っている。
 大浦湾での海上準備作業が始まった9日の会見で木原稔防衛相は事前協議について「適切に対応する」と繰り返した。琉球新報記者が着工は協議終了を待つのか重ねて質問したが「適切な対応」を繰り返すだけだった。当事者としての認識を欠いた無責任な態度だと言わざるを得ない。
 代執行訴訟についての福岡高裁那覇支部の判決は、普天間飛行場問題の解決策は「辺野古が唯一」とする国の頑迷を追認する不当なものではあったが、付言において国に注文を付けた。「国と県とが相互理解に向けて対話を重ねることを通じて抜本的解決の図られることが強く望まれている」との戒めだった。事前協議を巡る防衛省側の対応は、この付言ともかけ離れている。
 映画監督のオリバー・ストーン氏ら各国の識者ら400人以上が連名で発表した辺野古移設に反対する声明は、琉球新報社説を引用し、沖縄への無関心が背景にあると訴えた。
 これを植民地主義的無関心と評し、「米国市民の圧倒的多数は自国政府が沖縄で何をしているのかさえ知らない」と、多くの県民の埋め立て反対の意思に反し、生態系を破壊する事業を展開する日米両政府を批判した。
 自己決定権が侵害されているという沖縄の訴えへの強い共感であり、政府の強硬な姿勢に対する厳しい修正要求である。沖縄の訴えが普遍性を持っていることも示している。米国民にも再考を促すものだろう。
 辺野古埋め立てで普天間問題は解決しない。国は着工することなく、県が求める対話に応じるべきである。