<社説>陸自幹部靖国参拝 「誤解招く」では済まない


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<社説>陸自幹部靖国参拝 「誤解招く」では済まない
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 現在の自衛隊組織が過去の戦争にどう向き合ってきたか、厳しく問われる事態だ。なぜ、このようなことが起きたのか、検証が求められる。

 防衛省は、陸上自衛隊の小林弘樹陸上幕僚副長ら数十人が9日、靖国神社を集団で参拝したことを明らかにした。小林副長は時間休を取得し、公用車を使用した。全員が防衛省・自衛隊の内部からの参加で、いずれも私服で時間休などを取得していた。
 防衛省は1974年の事務次官通達で、宗教の礼拝所を部隊で参拝したり、隊員に参加を強制したりするのを禁じている。今回の集団参拝は通達に違反する可能性がある。
 新年の安全祈願として、陸自の担当部署が実施計画を作成したという。集団参拝はいつから始まったのか。74年の通達は徹底していないのか。参加者に強制力は働かなかったか。木原稔防衛相に集団参拝を事前に知らせていたか。疑問は多い。防衛省は事実を明らかにし、公表すべきだ。
 木原防衛相は12日の会見で、憲法が国による宗教的活動を禁じていることを指摘し「誤解を招く行動は避けなければならない」と述べた。憲法の規定にも抵触する可能性もあり、実施してはならなかった。「誤解を招く」では済まない。防衛相の指導力も厳しく問われる。文民統制の側面からも検証すべき問題を含んでいないか。
 特に靖国神社は過去の戦争、アジア・太平洋地域に対する加害・侵略行為との関係で首相、閣僚らによる参拝の是非が議論を呼んできた施設である。日本の防衛組織である自衛隊の幹部らが戦前の軍人らをまつる施設を集団で訪れたことに対し、国内外から批判が上がろう。
 自衛隊の前身組織である警察予備隊が朝鮮戦争の開始直後の1950年8月に発足して以来、戦力保持を否定する憲法9条の関わりが問題視されてきた。多くの国民が犠牲となり、アジア・太平洋地域の人々を傷つけた戦争に対する反省と平和を希求する国民感情に照らしても、再軍備への反発や不安は当然であった。
 憲法の規定を踏まえても、現在の自衛隊は組織として日本軍との連続性は否定されるべきである。戦前の軍国主義、戦争遂行を支え、正当化するための施設として機能した施設を自衛隊幹部らが集団で参拝することがいかに戦後日本の歩みから逸脱しているか、自覚すべきである。
 沖縄においては、沖縄戦を戦った32軍の首脳らを弔う黎明(れいめい)之塔に陸自隊員が集団で「慰霊の日」の早朝、制服で訪れたことに強い批判の声が出た。「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓に照らしても批判は当然である。
 2022年末に安全保障3文書が閣議決定され、日本は「戦争ができる国」へと大きく転換した。この流れの中で、陸自の集団靖国参拝は決して軽視できない行動だ。二度と繰り返してはならない。