自民党は、派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、党総裁の岸田文雄首相直属の機関「政治刷新本部」で、派閥解消の是非を巡る議論を始めた。党の派閥幹部が次々に地検から事情聴取され、池田佳隆衆院議員が逮捕されるなど事件は深刻度を増す。
首相は本部会議で「国民の信頼を回復するため、日本の民主主義を守るため、党自ら変わらなければならない」と訴えた。だが本部メンバーを務める複数の安倍派議員が派閥から還流を受け裏金にしていた可能性が浮上している。
もはや自民党の自浄作用には期待はできない。派閥解体の議論よりも先に、抜け穴が多くザル法と言われている政治資金規正法の抜本改正こそが先だ。政治不信の根深さを分かっていない。法改正は党改革案にあるものの、実効性ある法律にしなければ、いたちごっこの繰り返しになる。派閥解体は規正法の抜本改正あってこその議論だ。
岸田首相の問題意識の欠如を疑う。自民党は事件を派閥の問題に矮小化していないか。派閥が解体されても、自民党が恒例としてきた政治資金パーティーなどの資金集めのやり方が温存されれば、また違法行為を招きかねない。そこにメスを入れるべきだ。
政治資金規正法の目的は「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにする」ことである。法の実効性は、この目的にいかに近づけるかである。今回の一連の疑惑をみると、実効性担保に向け多くの論点が存在する。
例えば、同じ資金集めであっても、寄付とパーティーの違いが大きい。この違いをなくすことだ。寄付は年間5万円を超えると個人や企業の名前を収支報告書に記載しなければならない。だがパーティーだと、1回につき20万円以下なら名前を公表する義務はなく匿名で資金提供できる。
企業・団体による献金は政党に対してのみ認められているが、パーティー券だと政党以外の政治団体からも購入できる。寄付は国の補助金を受けた法人は禁止だが、パーティー券購入には制約がない。これらを抜け穴として自民党は資金を集めてきた。
別の論点もある。収支報告書の記載漏れが発覚すると「記載ミス」として訂正で済ませることが横行している。これは規正法を順守することへの認識が甘い証左である。罰則適応を検討すべきだ。違反した場合、会計責任者だけが有罪になるのもおかしい。政治家と連座させてはどうか。
野党には企業・団体献金の全面禁止の声がある。当然だ。そもそも特定の企業・団体との癒着を防ぐために税金を原資とした政党交付金がある。
問題の本質は政治資金の在り方である。それを問うためにやるべき議論がたくさんある。派閥の問題だけにすり替えてはいけない。岸田首相が国民の信頼を本気で回復したいのならば、まずはザル法を改める決意を示すべきだ。