<社説>台湾総統に頼氏 地域の安定へ対話推進を


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<社説>台湾総統に頼氏 地域の安定へ対話推進を
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 13日に投開票された台湾総統選で、与党の民主進歩党(民進党)候補の頼清徳副総統が初当選した。1996年に総統の直接選挙が実現して以降、同一政党が初めて3期連続で政権を担う。台湾の民意として、選挙結果を重く受け止めたい。

 選挙戦は、中国との距離感を対立軸に争われた。2期8年の蔡英文政権の路線を引き継ぎ、米国との連携強化で中国に向き合うと訴えた頼氏に対し、最大野党・国民党の侯友宜候補、野党第2党・台湾民衆党の柯文哲候補は中国との対話の重要性を強調してきた。
 総統選を巡って中国は、頼氏を台湾独立派と見なして敵視し、一部台湾製品への関税優遇措置を停止するなど揺さぶりをかけてきた。また、総統選を「戦争か平和の選択」になると主張。軍事演習実施などでも「圧力」を強めてきた。
 今回、頼氏が選挙戦を制したことで、台湾の有権者は蔡政権の路線継続を支持したことになる。威圧的行動を強める中国に反発する一方で、統一も独立も求めない「現状維持」を選択したとも言える。
 中国の習近平国家主席は新年を迎えるあいさつで「祖国統一は歴史的必然だ」と述べ台湾統一への決意を示した。中国は「親中政権」誕生を目的に総統選へ介入したとされる。頼氏の当選で、中国は外交や軍事、経済の分野で、民進党政権への圧力をさらに強める可能性がある。
 しかし、いたずらに両岸関係の緊張を高めることは避けるべきだ。
 頼氏は当選後の記者会見で、衝突のリスク回避に向け対話に応じるよう中国に呼びかけた。「対抗ではなく対話によって平和共存を実現させなければならない」と強調した。中国側も圧力を強める姿勢をやめ、台湾海峡の平和的安定に向け、台湾との対話に応じる必要がある。
 米国は頼氏の当選を受け、引き続き軍事支援や経済協力を通じ台湾との連携を図る構えだが、バイデン大統領は「私たちは独立を支持しない」と言及した。米国の「一つの中国」政策は変わらないとの立場を強調し、中国に配慮した格好だ。ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の対応に追われる米国にとっても、現状では台湾海峡の安定が欠かせないとも言える。
 中台関係を悪化させず、地域の安定を図るには、日本が果たす役割も大きい。台湾とのパートナーシップを強化する一方で、対話による日中関係の改善を急ぐべきだ。
 「台湾有事」を念頭に日本政府は南西諸島への自衛隊強化を進めるが、力による対抗は緊張を生み出すだけだ。有事となれば沖縄が衝突に巻き込まれるリスクもある。
 中台関係の安定こそがそれぞれの利益となり、経済的発展をもたらすのは自明だ。総統選の結果をリスクと捉えず、建設的かつ安定的な関係構築・発展に向けた機会とすべきだ。