<社説>高い奨学金利用率 支援拡充と周知に努めよ


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<社説>高い奨学金利用率 支援拡充と周知に努めよ
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 苦しい家計の中で多くの若者が奨学金の支えによって大学で学び、卒業後はその返済に追われている。沖縄の実情に合った支援が必要だ。

 県内の大学に通う学部生1万7756人(2021年度)のうち、日本学生支援機構の奨学金を利用している人は貸与型、給付型を合わせて全国2位の64.2%に上ることが琉球新報社のまとめで分かった。そのうち返済が必要な貸与型奨学金の貸与率は全国7位の43%だった。
 貸与型、給付型を合わせた奨学金利用率の上位10県のうち8県が沖縄と九州地方だった。さらに貸与型奨学金の貸与率の上位を九州地方と東北地方が占めている。家計の厳しさが奨学金の利用率や貸与率に反映したとみられる。困窮世帯の高校生の進学を支える公的制度の充実が求められる。地域間の格差も是正されなければならない。
 総務省全国家計構造調査(19年)によると、沖縄の世帯収入、金融資産残高の順位は全国最下位である。県の高校生調査(22年度)では、4人世帯で年収254万円未満の「困窮層」に当たる家庭は26.3%。文部科学省の学校基本調査(23年度)によると沖縄の大学等進学率(短大を含む)は全国最下位の46.3%。上昇傾向にはあるが全国平均60.8%を大きく下回っている。
 家計を助けるためアルバイトに励む高校生や、大学進学を希望しながら断念する高校生がいることを重く受け止めなければならない。
 2015年の県調査で、沖縄の子どもの貧困率が全国の約2倍に当たる29.9%に達することが判明して以来、「切れ目のない支援」の必要性が叫ばれている。乳幼児時、小中学生期、高校生期それぞれのステージに応じて支援し、進路決定や就職につなげる必要がある。大学進学に関して言えば給付型奨学金や大学授業料減免制度、奨学金返済の減額制度などの充実が求められよう。
 岸田政権が掲げる「次元の異なる少子化対策」の一環で、文部科学省は給付型奨学金の拡充や大学院生の授業料後払い制度などを打ち出している。県も奨学金返済を始めた社会人支援策として22年度から従業員の奨学金返済を支援する中小企業に対し、企業が負担する額の半分を補助する制度を始めた。
 これらの制度は貧困の連鎖を断つ上で有効であろう。課題は実際に困っている高校生を支援につなげる方策である。県の高校生調査によると大学無償化などの支援策があまり認知されていないことが分かっている。自治体が給付型奨学金制度を創設しても応募がないケースもある。利用しやすい制度設計と積極的な広報活動が必要だ。
 次代を担う若者たちにさまざまな選択肢を提示できる社会でなければならない。経済的に困っている若者のニーズを踏まえた支援策の拡充と周知に努めるべきだ。