<社説>非正規給与遡及せず 上げ分支給へ努力尽くせ


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<社説>非正規給与遡及せず 上げ分支給へ努力尽くせ
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 国の人事院と県人事委員会の勧告に基づく2023年度の自治体職員の給与引き上げで、非正規の会計年度任用職員への対応にばらつきが出ている。琉球新報の調べによると、県内15市町村は、正規職員には認められている給与引き上げの遡及適用を任用職員には実施しない方針だ。那覇市は当初方針を改め、引き上げ分を支給することになった。

 地方公務員の給与改定は毎年夏から秋にかけ人事院勧告や都道府県人事委員会勧告に基づき検討される。正規職員は昨年4月にさかのぼり改訂される。任用職員に遡及しない自治体は給与計算を管理するシステムの問題などで「作業が煩雑」などと説明する。
 しかし同一の業務であるならば、任用職員にも給与引き上げを遡及適用すべきだ。国は昨年5月に会計年度任用職員の給与も遡及改定するよう自治体に通達した。ただでさえ全国比で所得が最低水準の沖縄で行政は率先して格差是正を図るべき立場だ。職員の手作業やエクセル計算で遡及する自治体もある。できないことはない。あらゆる努力を尽くし、給与引き上げ分をさかのぼって支払うべきだ。
 琉球新報の調べでは、県知事部局と県教育庁、県警、全41市町村の首長部局には約1万1440人の任用職員がいる。うち遡及適用されない職員は約2300人に上る。
 任用職員は低賃金だけでなく、雇用期間は長くて3年とする自治体が多い。雇い止めの恐怖があるためハラスメントなどに遭っても声を上げにくい。専門的な仕事も多いが、貧困から抜け出せず「官製ワーキングプア」とも呼ばれる。
 総務省によると、全国の非正規地方公務員は2005年は約45万6千人だったが、20年には1・5倍の約69万4千人まで膨らんだ。うち会計年
度任用職員は約9割を占める。
 会計年度任用職員として働く女性は琉球新報の取材に「正規職員と仕事の差はほとんどないのに、会計任用の給与は後回しにされている」と語った。当然の不満であろう。
 任用職員には社会的弱者へのケアを担う人も大勢いる。労働条件が悪化すれば、その結果、行政のケアが必要な人々の生活を保障する力も落ちる。逆に賃金などの条件を良くすれば、自治体からの人材流出を防ぎ、ひいては市民サービスの向上にもつながる。
 労働争議などに制約がある公務員にとって人事院勧告は代償措置であり、極力尊重されるべきだ。非正規職員の待遇改善は全国的課題であり、ボーナスを拡充する改正地方自治法が昨年成立した。期末手当に加え、勤勉手当も支給できるようになった。この流れを阻んではならない。
 厚生労働省による21年全国調査では、世帯ごとの所得格差は過去最大水準となった。物価高騰も加わり、生活に苦しむ人は増えた。各自治体はこの実態から目を背けず、まず自身の組織にある格差是正に全力を挙げるべきだ。