<社説>離島住民避難へ検討班 平和外交の努力が国益だ


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<社説>離島住民避難へ検討班 平和外交の努力が国益だ
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 政府が「台湾有事」の際に離島住民を避難させる計画の策定に向けて、内閣官房に検討班を設置した。国民保護法に基づく関係自治体の避難計画を2024年度にまとめる方針で、検討班はその調整役を担うという。戦争準備がまた一歩進んだ。沖縄戦の惨禍を知る沖縄県民は、沖縄が戦場になることを想定した計画を受け入れるわけにいかない。

 避難計画は、「武力攻撃予測事態」や弾道ミサイルの着弾があった際に、先島諸島5市町村の住民約11万人と観光客らの計12万人を九州7県と山口県に避難させるというものだ。政府は「6日間程度で避難できる」としている。
 避難先となる各県では、滞在施設の選定、食料の備蓄、医療体制構築が必要になる。避難が長期化した場合の教育支援、就労支援も検討するという。防災対策の強化が叫ばれているのに、各県は沖縄からの避難対策も求められることになる。
 政府は昨年、8県に順次受け入れを要請しており、全体計画に先行して熊本県八代市に避難させる計画を本年度中に策定する。昨年3月には沖縄県で、今年に入って鹿児島県、熊本県で図上訓練が行われ、鹿児島県屋久島町で九州への避難訓練を実施した。
 この慌ただしい動きは、22年12月に安保関連3文書の一つとして策定された「国家安全保障戦略」で「国民保護のための体制の強化」を打ち出したからだ。「戦略」では「武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現すべく、円滑な避難に関する計画の速やかな策定、官民の輸送手段の確保、空港・港湾等の公共インフラの整備と利用調整、様々な種類の避難施設の確保、国際機関との連携等を行う」と述べている。
 政府は「武力攻撃予測事態」を認定すると避難を指示する。財産も生計も全て置いて島を離れることが受け入れられるのか。中には入院中の人や重い障がいのある人もいる。動けない人は島内のシェルターに避難させるのだろうか。強制避難自体、人権侵害ではないか。沖縄戦では、疎開を
巡っても多くの悲劇があった。
 仮に避難できたとして、その先はどうなるのか。「台湾有事」が先島に及ぶということは、米軍と自衛隊が戦争状態に入るということだ。真っ先に基地が攻撃され、次いで軍事利用が可能な公共インフラも標的になるだろう。戦火は南西諸島全域へ、本土へと拡大する可能性がある。
 「国家安全保障戦略」では「我が国の国益」として、冒頭に「我が国の主権と独立を維持し、領域を保全し、国民の生命・身体・財産の安全を確保する」と記している。現代において戦争は最大の国益の損失であり、戦争を起こさないことこそが国益だ。
 避難計画より先にやることがある。戦争を想定して準備するのではなく、平和を守る外交に覚悟を求めたい。