<社説>「特別注視」指定 土地と住民覆う法適用だ


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<社説>「特別注視」指定 土地と住民覆う法適用だ
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 米軍や自衛隊基地周辺などの土地取引を規制する「土地利用規制法」の対象に、北谷町と嘉手納町の町民が住むほぼ全域が「特別注視区域」に指定された。私権を拘束し、人権をも侵害しかねない法律の網が両町の土地を覆い、町民を縛るようなものだ。

 安全保障上、重要な土地の利用を規制するこの法律は2021年6月に成立した。外国資本による土地購入に対する懸念を背景に制定された。野党は「国民監視につながる」と批判したが、議論が不十分のまま与党が押し切った。
 「注視区域」に指定されると、政府が土地の利用状況を調べることができる。「特別注視区域」では、200平方メートル以上の土地売買は届け出が必要となる。
 調査範囲は、在沖米軍基地など「重要施設」などの周辺1キロ圏内で、調査内容は不動産登記簿、住民票や土地・建物の所有者名、国籍にも及ぶ。
 特別注視区域に含まれている北谷町には、嘉手納基地、キャンプ桑江、キャンプ瑞慶覧および陸軍貯油施設の四つの米軍基地が存在しており、町面積の約51.6%を占有している。嘉手納町は嘉手納基地のほか、嘉手納弾薬庫地区および陸軍貯油施設があり、町面積の約83%が米軍施設として利用されている。
 土地利用に大きな制約を抱えながら、両町とも米軍施設に占有されていない狭小な土地でまちづくりをしなくてはならなかった。広大な米軍基地は経済活動の妨げとなる。施設周辺まで自由な経済活動が制限されてしまっては、まちづくりにさらなる支障が出るかもしれない。
 法律の恣意的(しいてき)な運用によって規制が拡大する可能性もある。法律に基づき、政府は施設への妨害行為に対する勧告や罰則付きの命令を出すことができる。表現の自由にも関わる問題だ。重大な人権侵害を招きかねない法律の適用を認めるわけにはいかない。
 沖縄では、基地に起因する事件・事故や環境汚染によって県民生活を脅かされている。県民の不満や警戒感は根強く、集会や抗議行動によって基地の重圧に抵抗してきたのだ。そのような県民の行動を監視や規制の対象とする懸念がぬぐえないのである。
 県は国に対し「さらなる負担を強いるものであるとして、極めて強い反対意見がある」と指摘し、最大限地域の実情を踏まえて対応するよう国に求めた。当然の要求だ。国は真摯(しんし)に対応すべきだ。
 米軍基地だけではない。「台湾有事」を想定した自衛隊の「南西シフト」で宮古・八重山地域で自衛隊の増強が進んでいるが、自衛隊施設周辺も特別注視区域に指定されている。
 憲法が保障する基本的人権の根底にあるのは「国家権力からの自由」だ。住民の権利を脅かす法律は受け入れられない。経済活動やまちづくり、個人の思想・表現を阻害しかねない法律を廃止すべきだ。